太陽の
騎士

月の
巫女

NO1
邂逅

その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14
その15
その16
その17

 

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「だめ」
  トリュファイナは飛び込んだ。
  誰もが動きを止めたように思えた。それは恐怖のためかと思ったがそうではない。
  トリュファイナだけが動いていた。その止った世界の中で。
  トリュファイナは思い出していた。戦う帝が決して逃れられぬと思われた死の剣を防いだとされる妖精后シャレムの早さを。
  時の早さを越えて動く力。それが月の力の一つなのだ。
  それには恐ろしいほどの力を消費しているのが分かる。エリクの体を逃すのが限界だった。
  時の流れに追いつかれ、エリクの真顔がある。
「悪い。いつも決まらないな」
「そうだね。エリクはきっと一人ではダメなのよ」
  エリクを見ていると力が出るような気がした。魔術師がいっていた言葉が思い出された。
「でも、私は強い。エリクも強い。二人なら勝てるよ」
「ジャックとブロッサムみたいにな」
  トリュファイナは首を横に振った。
「違うの。私たちは生きるの。私は私の全力、エリクはエリクの全力で」
  二人は仮面の魔術師に向かい合った。
「行くぞ魔術師」
「さらばです太陽の騎士」
  魔弾が魔術師の背後に現れる。その数は数え切れぬほど膨れ上がった。
「もし本当に彼が魔術王なら、私たちは神に挑んでいるの」
「神か。でもな、俺は許せない。何もなければみんな生きていた。それを」
「大丈夫。私たちは強いの。だから彼はあれだけのものを用意した。さっき魔術師を倒した時よりもずっと多いんだよ。だからいこう」

 魔弾が放たれた。大気を切り裂きながら迫る魔弾。その軌跡は極光の魔弾の名にふさわしく見る間に色彩を変えて美しく禍々しい。
  エリクは身構えている。自分を信じて逃げることなく立っているエリク。もし今からすることが過ちならばエリクはきっと死ぬ。そして自分の生命も終わる。
  できるはずだ。妖精后が王知り合ったのはまだ少女の時だった。その力が今の帝国の礎となった。私もその血に連なるものだから。
  魔弾の数が不意に減る。
「月は闇を払い、闇を統べる。魔術は闇に属するもの」
  魔術師の言葉が明快なビジョンとして広がる。それは核心となって、トリュファイナの中に根付いていた。
  魔弾は薄くなり、その輝きが落ちていく。
「行って」
  エリクは魔術師に向かい飛び込んだ。交わすこともせずただまっすぐに。速度と威力を落とした魔弾を叩き落し飛び込む。剣が震える。その中でエリクは叫んだ。
  魔術師が叫んだ。
  閃き断つ光輝と魔弾とぶつかり合う。 
  光がすべてを多い尽くした。

 光が去り、エリクは地面に転がっている。交わしきれなかったのは魔弾が何発もエリクの体を貫いている。
「エリク」
  トリュファイナの、レジスの、フェルティアの叫びが響いた。
「ばかな」
  魔術師の口から呟きが漏れた。
「まだだ」
  エリクは立ち上がった。
  闇払う陽の標が仮面に突き刺さっている。いや、未だ力を失わないその刃身が大きく震えた。仮面を吹き飛ばしなお、刃は震える。その先は日輪だった。
  闇払う陽の標と黒い日輪はぶつかりあい消え去っていく。
  日輪が消え、黒い火の粉が、雨のように降る。 
  魔術師とエリクは無言のまま睨み合う。魔術師の姿が不意に消えた。
  太陽の光がエリクの体を照らし出した。その足元に闇払う陽の標が突き刺さる。
「俺達の勝ちだ」
  エリクは走ってくるトリュファイナを抱きしめた。
  それは太陽の騎士エリク・チェンバースの最初の勝利であった。

 


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