太陽の |
NO1
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いけない。どうしてこんなに眠いのかしら。 トリュファイナは目をこすった。そうするのは失礼だし、不調法なのもわかっている。 もうしわけなさを感じながら、目の前の楽士を見ると小さく笑みを返された。曲を奏でているのに、しっかりこちたの事も確かめている。 トリュファイナは曲に集中した。曲は「騎士王の竜殺し」。重層な音律を持つこの曲は身を震わせるような印象こそあれ眠くなるものでは決してない。 二人なら話をして紛らわす事もできるのだけれど。 戻ってこないフェルティアの事をトリュファイナは考えた。もともとこの離宮に来たのも、故郷に帰るフェルティアにその前に少しでも休息してほしいと思ったからなのだが、かえって迷惑をかけているような気がした。エリクと何もないといいのだ。音楽の神の使徒とその男は名乗った。加えて父親からの書状も持参していたので、演奏をさせたのだがすばらしいものだ。それだけではない。書状は日付は昨日のものだった。エリクが言っていたような事が起きているのなら、こんな手紙は来ないはずだった。きっと連絡のつかないというエリクの父親も、何かの勘違いなのだろう。 物が壊れる音のした。 音の方を見れば給仕が倒れている。それだけではない。侍女や、執事、衛兵。誰もが眠っている。 「姫君はさすがに意思がお強い。妖精の血は、魔力に抗う力を与えますから」 「あなたはいったい?」 声を上げた。 「トリュファイナ」 フェルティアの声が響いた。 今まさにここに駆けつけたようでフェルティアの声は掠れている。 「魔術を解け」 フェルティアはレイピアを抜き、突き掛かった。 穿つそれは横から飛び出した黒い鎧の戦士の剣撃に止められていた。それだけではないレイピアは力をしのぎ切れず折れていた。 フェルティアを囲うようして何人もの黒い鎧の戦士たちが現れている。 全身を包む鎧に包まれた男たちの手にはエリクが使っていた同じような刃の厚い剣が握られている。 フェルティアに向かいその剣が振り落とされた。 「フェルティア」 トリュファイナの悲鳴に突き動かされたように、フェルティアは転がりながら下がった。それでも刃が掠った腕から血が滲んでいる。 「降伏なさい」 楽士はいった。 「ふざけるな」 フェルティアの口から呪文が漏れた。 「魔法戦士か」 フェルティアの広げた掌に魔力の塊が渦を巻き、砲弾を形作る。 「受けろ」 それは戦士を直撃した。戦士の体が壁に叩きつけられる。 「もう一度言う魔術を解け」 フェルティアの手が楽士に向けられた。 楽士は笑った。 「悪くない」 楽士の口から、楽士のものでない声が漏れた。楽士の口が広がる。楽士の顎の骨の砕ける音がした。楽士の口を開き、いや壊され、現れたのは黒いローブを身につけた一見して魔術師と分かる姿だ。 「誰だ?」 「うむう。それは不勉強というものだ。魔術を学ぶのなら、先人の事を知るのは必要な事だ。ともあれ君は戦士としてここに立ったようだがね」 背後に足音を聞いたのは同時だった。 振り返ったフェルティアに剣が叩き落とされた。 「危ない」 だが、振り落とされた刃の下にフェルティアの姿はない。 「よかった」 トリュファイナは呟いた。 「透明化か、空間転移か。まあ、目的はあれではないし、構わないが」 魔術師はこちらを見た。その目の冷ややかさにトリュファイナは身構えた。 「君は暫く眠りたまえ」 ただ、その一言で意識が霞んだ。それでも倒れるまでにはいたらなかった。 「すばらしい。でも、それ以上は無駄だよ」 それからどれだけたったのか。一瞬か、数分か分からない。意識は堕ちかけている。 フェルティアが外にいったのなら、きっと助けに来てくれる。 浮かんだ顔は一人の少年の顔だった。 「エリク」
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