太陽の |
NO1
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「素晴らしいですねエリク・チェンバース。君がここまでの使い手になるとは思いませんでした」 エリクはさらに足を速める。 遅れれば迷う。迷えば悩む。それは一撃を弱くする。先程、ナスを倒したあれを。 「受けろ」 ナスを倒したのを同じ閃きの一撃。それは放つ前に、剣の一撃が防がれていた。不意に現れたシベルナに。 「く」 「まあ、最後の一幕は変わりはしませんが」 エリクは闇払う陽の標を構えながら突っ込んだ。 剣撃が重なった。 「退け親父」 エリクは怒鳴りながら剣を振った。剣が教えてくれた知識が今までにない読み、予測をエリクに与えている。だからこそ父親の卓越した腕が分かる。 今までいかに父親が、教えるという立場で剣を振っていたか。手加減していたか、今なら分かる。 来る ナスとの戦いを止めたあの一撃が来るのは分かった。腕に回転を欠け剣を吹き飛ばす技だ。分かっていても受けた瞬間、剣が離れ、宙を舞った。 シベルナは剣を振り上げた。 「エリク」 レジスの空気砲と、フェルティアの魔弾が、エリクとシベルナの間を開く。 「闇払う陽の標をとりなさい」 魔術師の声に、シベルナは自らの剣を捨て、闇払う陽の標を取った。 「これで仇敵は我が物です」 魔術師の体が小さくなったと思うとシベルナの口へと入り込む。 「早速始めましょうか。新たなる宴を」 シベルナの口から魔術師の声が漏れた。シベルナは剣を天にかざした。剣が変形した。枝分かれしたようにいくつもの刃が別れる。それに伴って刃が黒く変色する。闇が淀み、集まっていく。空に黒い日輪が現れた。 黒い日輪は震えた。周りで死人たちが声を上げる。 エリクは立ち上がった。 「お前の狙いはこれか」 「ええ。あなたがた鎖、いいえ太陽の騎士の一族の力を触媒にこれを作ろうと思いまして。闇の日輪は美しいでしょ。これからはこの太陽が新たに世界を照らす」 「ふざけるな」 エリクは叫んだ。 「さらばです」 黒い日輪の輝きが増した。その輝きは下に集まり始める。 「神の一涙、受けなさい」 黒い巨大な涙滴が落ちる。それは大きさを増していく。離宮なら飲み込むほどの巨大なもの。 どこからか呪文の詠唱が聞こえた。 涙は落ちなかった。細かな粒となって散っていく。涙を砕き、叩き落とした数多の魔弾であった。一つ一つが人ほどもある魔力の塊がかけらを叩き落とし、粉々に砕いて行く。 「極光の魔弾」 魔術師は声を上げた。 「禁呪」 フェルティアは声をあげてその光を見た。一つが一つがフェルティアの渾身の魔力の砲弾に相当する威力を持つそれは禁呪とされるものだ。 エリクは足元の父の剣を取った。足元を薙ぐ一撃がシベルナの足を切り裂く。 「無駄ですよ。その魔も神も宿らぬ剣では私の入り込んだ体を傷つけることはできない。せめて、自分が手にいれた剣で死になさい」 勝ち誇った魔術師に向かい、エリクは笑った。 「お前は弱い」 エリクの剣が螺旋を描いた。鋭い回転を伴った一撃が、闇払う陽の標を空高く吹き飛ばした。 「ばかな」 魔術師の声の中、エリクは落ちてくる闇払う陽の標を片手で握った。 「親父が強いのは早さや力じゃない。シベルナ・チェンバースだからだ」 エリクの二本の剣が十字に交差し、シベルナを切り裂いた。 「くっ」 「借り物の力なんぞ効かない」 魔術師が口の中から飛び出し転がる。 残されたシベルナの体は光となりて消え去って行く。その手が軽くエリクの頭を叩いた。シベルナは笑った。 「親父」 笑みが父と子をつないだ。 不器用な愛情を残して、シベルナは光になった。
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