太陽の
騎士

月の
巫女

NO1
邂逅

その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12
その13
その14

 

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「これではつまらないですね」
  魔術師の口から呪文が漏れた。その力はトリュファイナには分からない。だが、今まで魔術師が呪文を唱えるのを見たことがない。そう考えればこれは。
「彼にも十二分に力を発揮してもらわないと。これからの準備でもありますが」
  日が陰った。朝の澄んだ日の光りは欠けた。不意に暗くなった世界にエリクは剣を止めた。
  日を隠すように何かが空にあった。それが太陽の光を吸いとるかのようだ。気温が下がり、冷ややかな風が吹いた。
  闇の中、赤い点が灯った。そうそれは。
  ナスな咆哮を上げた。来る。分かっていても交わすこともできなかった。エリクの体は吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた。
「はは」
  ナスは声をたてて笑うと歩き出した。
「行くぞ」
  答えるように建物の陰からナスの剣を受けた死者の兵たちが立ち上がると、ナスに続いて進み始めた。
  ナスの声を聞きながら、エリクは意識が遠のいて行くのを感じた。
  落ちたら死ぬ。『闇払う陽の標』が教えた記憶の中にある死もこれと同じだった。死は安らかなものだ。全ての感覚が失われていくのに身を任せてしまえばすぐに生命は消える。恐ろしいのはさらにここから生き残ろうとうすることに他ならない。
  生きようと思えば痛みが蘇る。
「お前はまだするべき事があろう」
  その声。父親の声ははっきりと聞こえた。
「エリク」
  その声は。
「レジス」
  目を開ければ揺すっているのはレジスだ。
「ナスは」
「フェルティアが追っかけている。それより大丈夫か」
「ああ」
  エリクは息を吐いた。傷があって全身が痛いのに、それ以上に体の中が熱い。それは『闇払う陽の標』から走り、生気となって全身に満ちてくる。それがエリクを立ち上がらせた。
「俺も追わないと」
「大丈夫なのか」
「ああ」
  ペガサスがエリクの背中を引っ張った。
「おお、ペガサスだ。二頭も一箇所にいるなんて珍しいね」
  レジスの言葉を聞かず、エリクはそのままペガサスに乗った。
「さあ、乗れ。いくぞ」

 離宮では無数の死者が武器を持って叫んだ。
  フェルティアはおぞけをふるった。この闇はあの伝説の闇だろう。大陸を数年間闇に包んだという魔術師の闇。その闇の中で死者たちの力は高まって行くようだ。その中央でナスは屍の王の如く、死者たちの声を聞いている。
  エリクとナスの勝負の終わりにたどり着いたフェルティアとレジスは、太陽が蝕まれるの見た。エリクが倒され、レジスは救護に、フェルティアは追跡に回った。
  フェルティアは聞きなれない高い嘶きを聞いた。ペガサスが空を駆け、エリクとレジスが飛び降りた。
「再戦といこうぜ」
  エリクはナスの前に降り立つと、そのまま切りかかる。縦横無尽なその動きは今までと違った。一撃にこめるのではなく、軽やかな剣筋がナスの体をいくつも傷つけた。小さな傷だ。だが、闇払う陽の標の為か、傷が燃え上がる。
「小僧が」
  声は咆哮に変わり、呪詛の響きを持ち、ナスの体を作り変えていく。傷が塞がりさらに一回り体が膨れ上がった。
  ナスは剣を叩きつけた。エリクは受けたものの、そのまま大きく弾かれる。どうにか立っているところに剣が振り落とされた。数多放たれる剣にエリクは防ぎ立っているのがやっとだ。
「負けるか」
  闇払う陽の標が一瞬のきらめきを見せる。それはきらめきから徐々に光を増した。
  エリクはナスに向かい飛び込んだ。
「受けろ」
  閃きが闇を断った。閃きは闇ともどもナスの体を両断する。エリクは膝をついた。放った剣撃に力を持っていかれたように体が動かない。
  ナスは血を噴出しながら立ち上がった。黒い血は絡まりまた新たな肉体をなしていく。
「効かんぞ」
  瞬間、ナスの体は斬られた部分から細かな光となって燃え上がっていく。
「ばかな」
  ナスの体が消え去る。
「エリク、いまのは」
「こいつのだろ」
  フェルティアの問いにエリクは剣を見せて呑気に笑って見せた。
  離宮の門が開いた。
  奥まで真っすぐに伸びたその果てにトリュファイナ、魔術師の姿が見える。
  エリクは足を速めた。

 

 


 

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