太陽の |
NO1
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「これではつまらないですね」 魔術師の口から呪文が漏れた。その力はトリュファイナには分からない。だが、今まで魔術師が呪文を唱えるのを見たことがない。そう考えればこれは。 「彼にも十二分に力を発揮してもらわないと。これからの準備でもありますが」 日が陰った。朝の澄んだ日の光りは欠けた。不意に暗くなった世界にエリクは剣を止めた。 日を隠すように何かが空にあった。それが太陽の光を吸いとるかのようだ。気温が下がり、冷ややかな風が吹いた。 闇の中、赤い点が灯った。そうそれは。 ナスな咆哮を上げた。来る。分かっていても交わすこともできなかった。エリクの体は吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた。 「はは」 ナスは声をたてて笑うと歩き出した。 「行くぞ」 答えるように建物の陰からナスの剣を受けた死者の兵たちが立ち上がると、ナスに続いて進み始めた。 ナスの声を聞きながら、エリクは意識が遠のいて行くのを感じた。 落ちたら死ぬ。『闇払う陽の標』が教えた記憶の中にある死もこれと同じだった。死は安らかなものだ。全ての感覚が失われていくのに身を任せてしまえばすぐに生命は消える。恐ろしいのはさらにここから生き残ろうとうすることに他ならない。 生きようと思えば痛みが蘇る。 「お前はまだするべき事があろう」 その声。父親の声ははっきりと聞こえた。 「エリク」 その声は。 「レジス」 目を開ければ揺すっているのはレジスだ。 「ナスは」 「フェルティアが追っかけている。それより大丈夫か」 「ああ」 エリクは息を吐いた。傷があって全身が痛いのに、それ以上に体の中が熱い。それは『闇払う陽の標』から走り、生気となって全身に満ちてくる。それがエリクを立ち上がらせた。 「俺も追わないと」 「大丈夫なのか」 「ああ」 ペガサスがエリクの背中を引っ張った。 「おお、ペガサスだ。二頭も一箇所にいるなんて珍しいね」 レジスの言葉を聞かず、エリクはそのままペガサスに乗った。 「さあ、乗れ。いくぞ」 離宮では無数の死者が武器を持って叫んだ。
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