太陽の
騎士

月の
巫女

NO1
邂逅

その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12

 

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 空に落ちて行く中で、エリクは叫んだ。
  果てのないどこかへの落下。
  こんなのは錯覚だ。
  エリクは息を吐いた。あの時感じていた足元で踏み付けられる花の感触を思い出す。
  それは今でも確かに足元にあるはずだ。空への落下などはない。
  落下は止まった。
  空はなかった。周りには星が瞬いている。足元の感覚はある。だとすればこれは幻覚なのか。疑問の中でエリクは叫んだ。
「俺はどうしたんだ」
  星の一つがエリクに近づいてくる。いや、むしろエリクが引き寄せられているのかもしれない。星だと思ったそれは近づくにつれて大きくなる。それは知っている姿だった。
「坊ちゃん」
  光は一人の老人の姿をとっていた。鎖の装備に身を固めた大柄な老人だった。ヨズといわれる老人は剣の中では、古強者としてしられている男だ。
「ヨズ爺さん。これはなんだ」
  エリクはいってから剣を構えた。ヨズは確かにあの時、魔術師に取り込まれた中にいた。
  ヨズは笑った。皺の中に目が埋もれてしまうような笑い顔はいつもと変わらない。
「お別れです。坊ちゃんもお元気で」
  ヨズの体は消えた。消えた中で残っていた小さな星は砕けた細かな星となる。
「おい」
  ヨズとなった星を追おうとすると背中の方で声がした。
「エリク」
  同じように鎖の装束に身を固めた戦士だ。そのエリクに似た雰囲気をもった叔父であった。
「今度はガク叔父貴か。どうなってるんだ」
「お前にはつらい思いをさせたな。姉さんが死んだ後、シベルナ義兄さんが厳しかったのは、お前を思ってだ。お前が倒せばあれも浮かばれるだろう」
「叔父貴まで、なんなんだ」
  ガクも散り星となる。
「なんなんだよいったい」
「まったくみんな何の説明もしないでエリク困ってるじゃないね」
  さらに現れたのは鎖の装束の女だ。褐色の肌は日焼けしたのではなく生来のものだ。そのまなざしは見られたものが射抜かれるような感慨を受ける美しさがある。
「姐御。どうなってんだ」
「どじってね。みんなあの黒いやろうに食われちまったの。だから最後のお別れにきたわけよ」
「どうなってんだ」
「あんたはこんなところにいなくていいから、さっさと戻って団長と戦いな。そして楽にさせてやりな」
「ここにきたのは剣を」
「あんたの手の中にはそれはあるはずだよ。ほら、さっさといけっての」
  エリクの体は再び投げ出された。
  今度は空ではない。下に向かって落ちて行く。
  気づけば白い花の中に立っている。手は柩のような白い墓石に触れている。
「夢じゃ無い」
  することは分かった。
  エリクは剣を抜くと、一気に叩きつけた。剣は砕けた。墓石に亀裂が入り、現れたのは古い剣だった。今では使われることがない、繊細な彫刻の施された鞘。細身の柄。いくつもの太陽を示すような象徴が刻み込まれている。
  エリクは迷わず剣を取った。 
  剣に手をやると来たのは地獄だった。
  無数の意味ある生と、刈り取られる命。それはこれまでこの剣を握ったものの記憶だ。

「偵察どころじゃないですね」
  フェルティアはいった。
  幸い宿屋は無事で、こうして顔を合わせている余裕が出て来た。ただし、フェルティアだけだが。嬉しそうに瓶の中に調合した薬品を含んでいる。
「やばいな」
  レジスの言葉には焦りが見える。フェルティアは小さく笑った。
「さっきまであんなに気合が入っていましたのに妙な事ですわね」
「さっきはさっき今は今だよ。まずいな。あんなの相手でエリクきたところでどうにもならないんじゃないの」
「確かにかの戦士ジャックも魔術師を攻める時は群衆に紛れて行きましたし。正面から行くのは無理でしょう」
  そういったフェルティアは身体の内側から聞こえてくるような声を感じた。魔術師同士の遠話呪文だ。
「いかがですか?」
「あまりよくはないですね。魔術師の制御を抜けたらしい戦士が暴れています。その為、離宮そのもの偵察はできていません」
「こちらは朗報です。エリク殿が剣を手に入れられました」
「本当ですか」
「ええ」
「これで大丈夫ですね」
「後は帝国の軍が来るのは3日後ですね。指揮官はアークラム公。帝国にやはり留まっていたようです。エリク殿の疲労が激しいので回復次第向かいますが、明日にはいけるでしょうから」
「分かりました」
  レジスが驚いた顔でこちらを見ている。恐らく独り言と見られていたのだろうと少し恥ずかしい。
「何です」
  そのせいで言葉に刺がこもった。
「いや、今のって魔法?」
「ええ。エリクは剣を手にいれたそうです」
「よかった。じゃあ、もう大丈夫だ」
「問題は帝国に知られた事ですが、到着する前までに勝負がつけば問題はないですね」
「そっか。フェルティアの方も大丈夫なんだ」
「え」
「魔術が世間であまり脅威に思われるとまずいんでしょ」
「ええ」
  フェルティアは先程の事を思い出した。
  先程、レジスは仮面の魔術師から渡されたものを使わなかった。
「レジスさま、もしかしてさっき空気砲を使わなかったのは」
「あれだけ人目があるとまずいかと思ってさ」
  レジスは笑った。
「そっちだって薬品使ったのそのためでしょ」
  フェルティアは下を向いた。
「どうしたの?」
「いいえあれは趣味です。薬品関連は魔術の分野の中では特に気に入っているんです」
「ああ。そうなの」
  扉がノックされた。
「お客様、いらっしゃいますか?」
「どうしました」
「大通りに殺された連中が化け物になっているそうで。お客様、先程の話を聞きまして、随分なご活躍だったそうで」
  レジスが奮闘したのは既にうわさになっているようだ。指示を出してほしいのだろうが、すっかり困った顔にレジスはなっている。
「レジスさま、あの森での策はどうですか」
「ああ、それいいね」
「説明してよろしいですか」
「頼むよ」
  フェルティアは頷くと、
「ああしたものは日光に弱いですから、朝まで耐えれば無事にすみます。基本は死体が動いているものですからできるだけ油を用意してください」

 


 

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