太陽の |
NO1
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空に落ちて行く中で、エリクは叫んだ。 果てのないどこかへの落下。 こんなのは錯覚だ。 エリクは息を吐いた。あの時感じていた足元で踏み付けられる花の感触を思い出す。 それは今でも確かに足元にあるはずだ。空への落下などはない。 落下は止まった。 空はなかった。周りには星が瞬いている。足元の感覚はある。だとすればこれは幻覚なのか。疑問の中でエリクは叫んだ。 「俺はどうしたんだ」 星の一つがエリクに近づいてくる。いや、むしろエリクが引き寄せられているのかもしれない。星だと思ったそれは近づくにつれて大きくなる。それは知っている姿だった。 「坊ちゃん」 光は一人の老人の姿をとっていた。鎖の装備に身を固めた大柄な老人だった。ヨズといわれる老人は剣の中では、古強者としてしられている男だ。 「ヨズ爺さん。これはなんだ」 エリクはいってから剣を構えた。ヨズは確かにあの時、魔術師に取り込まれた中にいた。 ヨズは笑った。皺の中に目が埋もれてしまうような笑い顔はいつもと変わらない。 「お別れです。坊ちゃんもお元気で」 ヨズの体は消えた。消えた中で残っていた小さな星は砕けた細かな星となる。 「おい」 ヨズとなった星を追おうとすると背中の方で声がした。 「エリク」 同じように鎖の装束に身を固めた戦士だ。そのエリクに似た雰囲気をもった叔父であった。 「今度はガク叔父貴か。どうなってるんだ」 「お前にはつらい思いをさせたな。姉さんが死んだ後、シベルナ義兄さんが厳しかったのは、お前を思ってだ。お前が倒せばあれも浮かばれるだろう」 「叔父貴まで、なんなんだ」 ガクも散り星となる。 「なんなんだよいったい」 「まったくみんな何の説明もしないでエリク困ってるじゃないね」 さらに現れたのは鎖の装束の女だ。褐色の肌は日焼けしたのではなく生来のものだ。そのまなざしは見られたものが射抜かれるような感慨を受ける美しさがある。 「姐御。どうなってんだ」 「どじってね。みんなあの黒いやろうに食われちまったの。だから最後のお別れにきたわけよ」 「どうなってんだ」 「あんたはこんなところにいなくていいから、さっさと戻って団長と戦いな。そして楽にさせてやりな」 「ここにきたのは剣を」 「あんたの手の中にはそれはあるはずだよ。ほら、さっさといけっての」 エリクの体は再び投げ出された。 今度は空ではない。下に向かって落ちて行く。 気づけば白い花の中に立っている。手は柩のような白い墓石に触れている。 「夢じゃ無い」 することは分かった。 エリクは剣を抜くと、一気に叩きつけた。剣は砕けた。墓石に亀裂が入り、現れたのは古い剣だった。今では使われることがない、繊細な彫刻の施された鞘。細身の柄。いくつもの太陽を示すような象徴が刻み込まれている。 エリクは迷わず剣を取った。 剣に手をやると来たのは地獄だった。 無数の意味ある生と、刈り取られる命。それはこれまでこの剣を握ったものの記憶だ。 「偵察どころじゃないですね」
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