太陽の
騎士

月の
巫女

NO1
邂逅

その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7
その8
その9
その10
その11

 

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「レジスさま、あれを」
  フェルティアがそういったのは街までわずかといったところだった。
  空飛ぶ絨毯は既に力を弱めており、つくころには既に夕方近い
  レジスはフェルティアに言われるまで、壊れかけの絨毯をしっかり動かすのに必死だったので気づかなかった。
  外壁からわずかの距離をおいたところに多くの多くの戦士の集団ができていた。
「もう帝国からこんなに」
  レジスは血の気がひくのを覚えた。戦争なんて起こらないような辺境で傭兵をしているならともかく、こんな場所で起きたらと思うとぞっとする。
「いいえ。そうではないようですわ。旗印がばらばらです。帝国軍は統一されていますから、恐らくは一旗あげようというものでしょう。帝国軍がくる前に、離宮を取り戻せば名があがりますからね」
「はあ言われて見れば最近大きな戦なんてないもんな」
「そうです。これはいい機会ですね」
「?」
「今は有象無象が集まっているでしょ。上に立つものも決まっていない。うまく指揮をとれれば、あの人数を従えて離宮にいけます。そうすれば割合、簡単に勝負をつけれるかもしれないです」
「それって俺がするの?」
  胃が痛くなるのをレジスは感じた。
「いえ。レジスさまはあまりそういうことは向かないと思いますので。エリクが戻って来てからの事ですね」
「じゃあ一つ偵察にいきますか」
  エリクは絨毯から飛び降りると、エスコートするようにフェルティアに手をのばした。
「結構です。私はメイドですから」
  フェルティアは身軽に飛び降りた。絨毯をカバンの中に突っ込むとレジスは歩きだした。
  外に戦士がいるから入れないと思ったがそうではないようだ。いつも通り、いくらかの金を払えば中に入れた。
  街の中も同じことだ。平穏とはいえないまでもいつもと同じようだ。
「魔術戦かな」
「恐らくはそうですね。気のせいにしてしまう欺瞞の魔術です。そう考えるとこの街はいいですね」
「どうして」
「この街の価値は離宮だけですから、それほど人間はいない。魔術師がそれほどの負担なく欺瞞の魔術を行うとすれば百人が限界ですから」
「百人ぽっちでいいの?」
「ええ。それだけいれば、いいんです。その一人が気のせいだと主張すれば以外と漏れないものです。でも、魔術師はそうは考えていないと思いますが。むしろ彼はギルドの介入や、帝国の目を向けたいように思えます」
「確かにエリクと乗り込んだ時は残念がっていた」
  榛亭と書かれた宿屋にレジスとフェルティアは入った。表通りにある宿は立派で、繁盛しているのか何人かの客が目の前で入るところだった。
「商売がしたいんだが、今は離宮にはどなたかいらっしゃってるのかな」
「お客さんは商人で。ええ、今はさる高貴なお方がいらしゃってるそうで。姫様や、あの竜殺しのナスさまもずっと離宮につめておいでですよ」
「へえそうなんだ。女官さんにいい装飾品があったんだけどね。それじゃ入れないな」
「そうなりますね」
「伝があればお礼ははずむんだけど」
「そうですか」
「一週間ほど払っておくよ」
  そういって十日分の金額を置いた。
「もし決まったらお礼はするからね」
「はい」
  店主に案内されて部屋に入った。
  窓からは、ほとんど高い建物がないせいで離宮の屋根が見える。
「何か分かる」
「ええ。魔力があります。ただ、ちょっと妙ですけど」
「妙っていうと」
「前は魔術師のものだけだったんですが交じっていますね。外からでは確かな事は言えませんが」
「行って見るか」
「いいえ。明日その伝をたどってからでいいと思います。今日はもう休みましょう」
「あのさ二人の時は前みたいでいいよ」
「そうだな」
  フェルティアの背筋がまっすぐ伸びる。
「しかし、巻き込んだようになってしまったな」
「まあ、どこか違うところで聞いててもエリクはああしたと思うしね」
「トリュファイナか」
「そうそう。ほっそりしてて典型的なお姫さまだもんね。エリクみたいにこういうところで育った人間からすればもう命懸けで助けに行くでしょ」
「レジスはどうなんだ」
「俺はつきあい」
「いや、お姫様とか」
「嫌いじゃないよ。普通、ガキの頃に一つや二つは騎士物語を聞いているもんだって」
「そうだな」
  そういったとき、怒声が聞こえた。街に入ってから初めて聞く戦いらしいものだ。
「敵だ」
  今度ははっきり意味ある声だ。
「いきましょう」
「ああ」
  二人は階段を降りると、一階では店主が不安気に外を見ている。
「外にたまっていた連中と、騎士さまが戦い出したらしいんですが」
「ありがとう」
  レジスは外に出た。



 ほんの少し前に見た門衛は壁にたたきつけられ死んでいた。
  レジスは小さく生命と死の神フィリノスの聖句を唱えた。
「レジスさま」
  門の方で戦いは始まっていた。
既に日が落ちおり、暗くなった世界には血の錆びたような匂いが広がっていた。転がったたいまつの光の中で、見えるのは生命を失った死体だった。
  虐殺が起きていた。
  一人の騎士の前には切り殺されたものの姿がある。そこを中心に距離を置き、武器を構えているものが対しているが既に及び腰だ。それもそのはずだろう。
  赤い騎士の回りで次々と戦士は切り殺される。
「ひでえ」
  レジスの顔が強ばった。殺されたと思われた戦士たちが立ち上がる。
「手加減してたんだ」
「違います。これは死の感染です。あれは既に生きる死者なんです 
  戦士達は立ち上がった。背後から見える靄のようなものが、黄色く明滅している。
「いけない」
  戦士達は街に向かっていく。
  飛び出そうとしたフェルティアをレジスは止めた。
「だめだ」
「だって街が」
「死体が一つ増えるだけだろ」
  フェルティアは黙った。
「俺達ができるのはあいつらをいれない事だ。門を閉めるんだ」
  レジスとフェルティアは走った。 門につき、扉を閉める。既に集まって来た人々は外を眺めているだけだ。
  レジスは扉を閉め、その辺りの物を積み上げた。そのレジスの姿に人々も手を貸し始める。ほんの少しの間に門の前には多くの荷物が積まれていた。
「どうしたんだ」
  息が切れて話し出そうとすると、レジスは咳き込んだ。
  フェルティアは前に出るとよどみなくいった。
「先ほど、レジスさまが、おっしゃられたかったのは、生ける死者が外に広がっているということです。それにこうもおしゃってました生ける死者は日の光に弱いから一晩入れられなければ大丈夫だと」
「わかった」
  扉の向こうで音がした。それは地響きにも似て遠くから聞こえる音だった。それは少しづつ近づき、やがて轟音となった。
  扉は吹き飛んでいた。
「そんな」
  先頭に立つのは赤い騎士だった。
「ヤグナー・ナスだ」
  人々の間から声があがった。
「諸君は誤解しているようだ。今のこの振る舞いは、離宮にて、姫をさらい立てこもる鎖一派に抗するための算段に過ぎぬ」
  安堵の声があがった。
「その算段に、みなにも協力してもらいたい」
「フィリノスの千の目にかけてそれは断る」
  そんな声があがった。
  神官服を身につけた年若い神官だ。どこかきらびやかなそれは生命と死をつかさどるフィリノス神の神官だった。
「ナス殿、冥府に帰りなされ」
  孔雀の尾を思わすフィリノス神の聖印が光を放ち、ナスの背後で絶叫があがった。
  立ち上がった兵士たちは倒れ再び動かなくなる。神官が最初に学ぶ死者払い、魂の清めだ。
「だまれ」
  ナスは剣を振り落とした。
  フィリノスの神官が切り伏せられた。
  フェルティアの手からいくつもの瓶が放たれる。割れた瓶から飛び出した粉がナスの体を包んだ。
「何をする小娘」
  フェルティアに向かい剣が叩き落された。
「うおお」
  エリクがナスの体に体当たりをくらわした。フェルティアの頭上を刃が切り裂く。
「レジスさま離れて」
  赤い瓶がナスに触れた。瞬間、業火がナスの体を包み込んだ。


 

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