NO8
唱う声猛き剣

その1
その2
その3
その4
その5
間奏


 

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声猛き剣

  レジスは平和な気持ちで街へと向かっていた。
  久々に一人きりで歩き回る町はけっこう楽しい。今回の件でアルから回ってきた報酬もそれなりの金額で、歩きながらも冷やかしではなく、買う気満々で回れるのは楽しい。
  アルとの旅は辛いながらも楽しいのだが、生命の危機にさらされている。加えてフェルティアも同行していたので気が気ではなかったのだ。
  もしフェルティア何かあったら・・・。その瞬間を考えてレジスは頭を振った。フェルティアには家にいて欲しい。
  考えてレジスは止めた。
  結局、今回は無事だったし、こうして街に帰ってくることもできた。それになんだかすっかり今、フェルティアを・・・にするような心積もりになっていなかっただろうか。
  レジスは子供数人がぼうっとした顔で自分の頭を見ている事に気付いた。レジスの髪は鮮やかな赤毛で目立つといえば目立つがここまで視線を集めるものではない。
  そうしてみれば子供がけっこう自分に似た髪の色をしている。染めているようだ。加えて、自分に似た髪型をしている。
「あれ」
  気付けばぞろぞろ子供がついてきている。
  音楽の神プライオネの神官であろう青年が声高らかに歌っている。それは早くも今回の一件の歌だった。その中で、自分の行動が見知らぬ勇者のように歌われている。
  それだけではない似姿までそこらかしこに配られているではないか。それも美化されたレジスと、これまた華奢に描かれたフェルティアの姿があった。
  レジスは思い出した。
  アルが常々いろいろと二人をくっつけようと企てていることを。ついに今回は回りから固める手に出たらしい。
「やられた」

 ロディ・ファーランドに事の顛末を話すためにフェルティアはアルと共に、屋敷に来ていた。
  待たされている客室は一見質素に見えるがどれも歴史あるもので、ファーランドという家の長さを感じさせた。戦士であり、領主をしている一族というのは大抵どこでも似通った雰囲気になる。魔術を扱う一族とはいえ、フェルティアの家も領主で戦士を輩出する一族なのは変わらない。
  だからこの部屋では実家に居るように落ち着いていられた。
  アルは口を開いた。
「ありがとう」
  不意に言われ、フェルティアはアルを見下ろした。
「どうなさったんですアルさま。そんな急に」
「実のところこういうところは好きではないのだ。わしのは知識で、経験ではないからな。こういう場所ではどう振舞っていいかわかるが、どういう感じでいるかは知識ではわからない。。その点フェルティア嬢は違うからな。助かる」
「生まれた場所の問題です。アルさまがうちにお生まれなっていたらきっとなれていたと思います」
「場所も重要だが、生き方は選ぶことができるからな。結局は日々の積み重ねが、月になり、年になり、一生になる」
「そう考えないといけないですね」
  フェルティアは目を伏せた。
「レジス氏のことを考えているのか?」
「いじわるですね」
  フェルティは答えながらレジスの事を思った
  大好きだ。それは誰にでも恥じることなく言える。ただ、一人レジス以外には。
  そういってしまえばレジスは自分の前からもう姿を見せることがない気がした。だから、言えずに今まできてしまった。
  あのトリュファイナを助けにいった一連の出来事はよく憶えている。。
「なあ、フェルティア嬢。レジス氏を選ぶなら、捨てなくてはならないものの方が多いぞ。それでもいいのか?」
  時折、アルは心を読むように語る事があるが今回もそうだった。
「そうですね」
  捨てるものは多いがそれでもかまわない。そう思えた。
「確かにそうですね。レジスさまについていけば、今まで得てきたものも、これからあるであろう栄誉もなくなりますね」
「それは大丈夫だと思う。レジス氏の与えてくれるものはきっと多いぞ」
「そうですか。でも、うちに婿には来てくれないだろうし。もしきてくれるとしても大変そうですし」
「大丈夫だ。レジス氏はそのうち英雄になるからな」
  アルは笑った。
「また何かされたんですか?」
「いや。ただ、ここに来る前に知り合いの神官にあったので話しておいた」
「それで英雄に?」
「ああ。音楽の神のプライオネ神の神官だからな。きっと今頃、歌っていると思うぞ。さんざん吹き込んでおいたからな」


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