NO7
昏き理

その1
その2
その3
その4
その5
間奏

 

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 白い砂が敷き詰められた世界と、ただ青いだけの空は静謐で、美しくすらあった。
  自分の前の前に広がるその世界を見ていると、こうして認識すらここに消えていってしまうような気がした。
「その考えは当たり前の事ですバネット・ガドフリー」
  目の前には白衣の男が立っていた。それがダルタロック神の三柱なる従神の二の名で知られる神格であるのはすぐにわかった。
「これはダルタロック神のお心のうちなのですから。この平安をすべてにもたらすためにわれわれはあるのですから」
  かの神はダルタロック神の尖兵としてもっとも見られる神だ。
  神の姿を見ているうちに自分が何をしたのか思い出した。
  聖域に参拝の名目で進入、さらに最下部にあった『昏き理』を用いたのだ。そう、そして自分は望んだことは。
『神の力を我に』
  最高の存在と思われた『灰の巨神』が、敗れたと聞いたのは、既に戦端を開いた後のことだった。『灰の巨神』の精製に必要な灰はその存在が強ければ強いほうがいい。そのために冒険者を誘い込もうと張っておいた罠。そこに引っかかった獲物は大きく、網ごと、逃げていった。
  倒したのは太陽の騎士エリク・チェンバース。正式には帝国に仕えていないものの、助力を求められれば間違いなく敵に回るだろう。
  太陽の騎士は地上でたた一人神を退けた男だ。なら少なくともそれだけの力が自分になくては話になるまい。
「ここにこうしてこれたのは以外です。他の御子となるやもしれぬものを全て滅ぼし、その魂を採生しなければここにはこれないはずですが」
  いうだけいってから低く従神の二は笑った。
「望まれたのですか主の力を」
「そうだ、従神の二よ。私にはその力が必要だ。フミヨの力も、死霊魔術の頂点も、望みには遠い」
「いえ。あなたの願いは既にかなったのですよ」
  従神の二は笑った。
「なんだと?」
「昏き理とは現在の自分を代価に、望んだ自分を現出させる呪。今まさにバネット・ガドフリーが主の力を得た時に始まることが起きているはず」
  ガドフリーは自分を見た。そこには確かに自分はいる。では、今までの居場所は。
「死病が広がっております。そして帝国の内部では様々な不安が起きている。あなたならそうしたのではないですか? その死を克服させることで信望を厚くし、同時に多くの採生を行い、つかえる存在を選別する」
「ばかな。望んだのはこの身で神の力を宿すこと。そんなばかな。では今のこの体は?」
  ガドフリーは座り込んだ。
「さあ、この世界を知りなさい。主が本来『昏き理』の代価に消滅したはずのあなたをここに呼びよせた意味を考えてね」
「意味だと」
「そうです。眼で見、耳で聞き、肌で感じなさい。主の力を」

「まったく厄介な連中だ」
  フェイト・クローナは呟いた。
  フェイトは聖山の麓にいた。
  多くの死霊払い、アンデットに対しての力を持つ神官が道には詰め掛けている。その目の前には影が数多存在していた。
  影は書から開放された魔力が変容し、厄病をもたらす存在と思われた。実体がないとはいっても倒せない存在ではない。フェイトがよく使う初歩の呪文「魔法の矢」で始末ができる。ただ、数が異様に多いのだ。
  死霊払いに加え、障壁を張り、押し止めなければ全てを突き抜け死病が広がることだろう。救いは影が道にそってしか進んでこないことだ。風のように、雲のように移動されれば対処法はないだろう。
「そうはいっても」
  神官たちの数は無限ではない。大して影は無限のように思える。大小はいずれ均衡を押し破るだろう。
  フェイトは自分の持つ呪文を考えた。一時的に散らすことはできてもそれ以上のことは望めない。最後はやはり無限の影に自分も飲み込まれる。
  影は動きを止めた。
  フィリノスの神官が無言で印を宙に描く。それにあわせて信徒達は大きく声をあげた。
「帝国の支援が成功したようです」
「うまくいったんですね」
  歓声が響いている。その中で力を失い座り込むものも多い。
  世界に蔓延していた気配が退き始める。
  エリク・チェンバースと、『闇払う陽の標』。そしてアルの力なら、問題なく封印が可能なはずだった。
  自分がいかなかったのは悲しいことだが正解だったようだ。
  だが、吸い込まれるように山に戻っていく様はフェイトに不吉な予感を与えた。
「いきます」
  フェイトは呪文を唱えた。その体が宙に浮いたと思うと高速で空中を飛翔する。影はすさまじい早さで山の中に吸い込まれていく。
「だれかが呪文を復元したのか」
  フェイトが知る限りそんな芸当ができるのはただ一人だけだった。
「シャレム后。いや月の巫女か」
  先程の呟きの中に残っていた帝国という言葉。帝国の力である月を持つものが出向いてきているのだろう。
  また気配が変わりつつあった。
  それは強い死の気配だった。
「ダルタロック神の眷属が来ているのか」
  山の中に入った。
  目の前を通り過ぎていくものにファイトは目を細めた。
  普段なら姿を見せない雑多な精霊がはっきり目に見えるようになっている。世界が変わりつつあった。


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