NO7
昏き理

その1

 

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 「アルさま、失礼します?」
  宿屋に戻るなり、フェルティアは口を開いた。
「今疲れているので後ででいいかな」
  アルはベットに腰掛て本を読んでいる最中のようだった。少しイライラしているようで、アルの額には皺がよっている。
「エリクがああいう反応なのは理由があるんです」
「理由か。そうだな分かれば対策がとれるかもしれない」
  興味を持ったのか皺は消えた。
「『鎖』の反乱はご存知ですか?」
「ああ、しっている。表向きは騎士が反乱した事になっているものだが、実際は魔術師が蘇ったらしいな」
「そうです。さすがに御詳しいですね。その時に魔術師を倒したのがエリクと現在月の巫女と呼ばれるトリュファイナ。その場にレジスさまとわたくしもいまして」
「ああそれもなんとなくしっている」
  月の巫女と、太陽の騎士の誕生は、喧伝こそされなかったが、帝国の動向を見ているものなら誰もが気付いたはずだ。
「でも、その魔術師ですら手駒でした。彼もまた蘇らせられただけだったのです」
「本当か。そんな芸当できる人間がいるとは思えない」
「人間ではないのです。魔術王が姿を見せたのです」
「ディラハム神か」
  死した女を模した仮面をつけた姿をした神ディラハムは、魔術王とも呼ばれ、魔術を嗜むものの神とされる。
「ええ。その時にエリクはディラハム神の仮面の下の顔を見たのです」
  アルは眼を細めた。エリクの反応を考えれば、その下にあった顔は。
「それがフェイト師だったと」
「私は見ていないですが、恐らくは」
  フェイトがそんな事をするとは思えなかった。というかゴールドドラゴンを食い物で誘うような男にそんな芸当は似合わないように思えた。
「まあ、本人もいないし現状では確認できないからな。それよりレジス氏を探しにいかなくていいのか?」
「え。どうしてレジスさまがそこで出てくるんですか?」
「いや、わしはリーダーとしていっているのだ。わしも鍵開けとかできないわけではないが専門の方がいいだろ。だから探してきて貰えないかな?。本当に困るのだ」
「そうですわね。では探しにいって参ります」
  フェルティアはゆっくりと部屋を出て行った。
「無理しちゃって。しかしなレジス氏は商人で盗賊ではないのだがね」

 フェルティアとほぼ入れ違いでニアヴが顔を出した。
「随分浮かれていったけれど彼女何かいいことがあったのかしら?」
「まあ恋するというのはそういうものらしいからな」
「相変わらずねアルは」
「それより息子の姿が見えないのだけれど」
「フェイト氏ならその迷惑をかけないようにとどこかに」
  気まずくなってアルは視線を泳がした。
「何喧嘩でもしたの」
「いや、それならまだいいのだが、実はフェイト氏に疑いを持つ人物がいて。今回の作戦には彼の手助けが必要だから」
「フェイトならそうするでしょうね。あの子もあなたと同じで基本的に理屈で動くから」
「わしと一緒?」
「ええ、そういうところなんかかなり似ていると思うわ。二人とも自分という存在が希薄なの。能力が高すぎて現実を現実と捉えきれない」
「希薄か。それはわし自身も常々感じている。それは中立でいようというための現われかもしれないが。力を持つものはあまり自己を持つものではないと思っているから」
「あの子にはそこまでのものはないけど、生に対して無頓着なのね。アルほどではないけど、あの子もまた神に愛されているから。子供の頃、幻像の呪文が好きでよく悪戯をしていたわ。私に絵をくれたのだけれど、本当にすばらしいもので、しばらく飾っておいたら、ある日いわれたのよ。どうして額だけを飾っているんですかって」
「ああ、それはすごいな」
「それはいいのではないかな」
「それも子供のころだけで、大人になったら負けることを許されなくてね」
「許されない」
「本来、苦労をして得る力を才能で守られている。同じだけの努力をしたら絶対に勝たなくてはいけない。だから勝つために手段を選ばないのよ。まあ、ぎりぎりまでそういう状況になるのを避けるようだけど」
  ドラゴンを餌付けしていた一幕を思い出しアルは納得した。
「ぎりぎりまでか?」
「ええ。でもただ隠れているわけではないと思う」
「何かしてくれているのだな」
「いえ。きっと誰にも見つからないようにしていると思う。昔からそうだから、驚かすのが好きなのよ」
「探した方がいいのかな?」
「う〜ん。それは自分で決めた方がいいわね」
「分かった」
  アルは部屋を飛び出していった。
「これでうまくいってくれれば母として悪くないのだろけど」
  ニアヴは呟いた。




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