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シムルグの街。宿の一室であるそこは広いものの、豪華ではないが、品のいい家具で揃えられている。部屋の中には、二人の男がいた。 その一人バネット・ガドフリーは頭を下げていた。その男は恰幅のいい中年に差し掛かった男だ。服装は、旅装に適した装飾の少ないものだが、それでも仕立てのよさが分かる。フミヨの方針に対し強い発言権を持つバーソロミュー卿であった。 「取り逃がしました。向かわれた先は祖の森かと」 「うむ。聖女さまはいかにお考えなのか」 「恐らく聖女さまは、あのドラゴンに哀れみを感じでおられるのだと思います。一度だけお目にかかりましたが、深い慈悲の持ち主であると感じられました」 「うむ。レテの聖女であるからには当然であろうな。もっと胸のうちをしっかり話して強力を求めるべきであったかもしれんな」 「いえそれは。国家の大事。軽々しく口にしなかったのは当然と考えます」 そこでガドフリーは一息いれた。 「しかし、このまま聖女さまを放置しておくわけには参りません。聖女さまは、ランドウル公に雇われたフェイト・クローナとおりました」 バーソロミュー卿の顔にあからさまに不快な表情が浮かんだ。 「あの魔王とか。それは危ういな。あのような男を側に置いては、いかになるかわからぬ」 「はい。しかし、魔王と聖女。そしてあのドラゴンがいれば、二人は目的を果たすでしょう。ここは聖女さまを迎えいれるべきではないかと。素直に話せば話の分からぬ方ではないでしょう」 「そうだな。それはよい考えだ」 「バーソロミューさまのお許しがでるのならば、私は配下のものを用いて、聖女さまを追いたいと考えます」 「うむ。お前がいってくれるのならば心強い」 「では、早速追跡に移ります」 「任せたぞ、ガドフリー」 ガドフリーは恭しく一礼してから部屋を出た。 廊下に出れば、永続化した魔法の光が明滅している。誰かが干渉している。 光が途絶えた。闇の中、浮かび上がったのは黒いケープに身を包んだ姿だった。竜を模したロッドは上位の魔術師であるのを示している。 「ねえ、私はいかなくていいの?」 「会いたいのかね」 「いいえ。彼女はあなたが思っているよりずっとしたたかで、生き汚いから」 「生き汚い。お前に言われるとは余程なのだな聖女殿は」 「そうよ。本当に油断しないことね」 光が戻った。 既に魔術師の気配はない。 「忌々しい僕め」 |
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