NO2 |
z |
二つの棺を後ろを向いて確認する。レジスは馬車を走らせ、神殿の外に出た。 神殿の裏口という目立たない場所に作られた出口。忌まわしいその場所に人間がいることはまずない。だが、今日は数人の男の姿を見ることができた。 レジスは無言のまま馬車を走らせた。 ついてくるものはない。 「よかった」 小さく呟きそのまま街の外れの墓地に向かう。 たどり着いた墓地は夜間ということもあって誰の姿もない。 「ついたよアルちゃん」 と後ろに向かって声をかけるが、随分のんびりと寝ているのか返事はない。 「アルちゃん、しょうがないなあ」 「聖女殿はそこにおられるのかな?」 レジスは声の主を見た。 場所の前に立っているのは一人の青年だ。後ろに流した黒髪に黒い瞳。整った顔をしているが、それよりも眼差しの鋭さが目に付く。年は三十程だろう。 「いや、その。あんた誰?」 「ガドフリーという。少々、聖女殿に話したいことがあってね」 「聖女だなんて嫌だな。ここには埋めるために持ってきた棺があるだけですよ」 「なるほどな。中身が死んでいるなら少しばかり手荒いマネをしても問題あるまい」 ガドフリーの言葉を聞くように墓石の影からいくつかの人影が姿を現した。 「おいまてよ」 人影の肩に手をかけたところでレジスは硬直した。人にしては奇妙に堅いそれは骨であった。 「うわ」 「ただのスケルトンだ」 「ただのっておい」 レジスは短剣を出した。 もっとも低いレベルのアンデットであるスケルトンだ。下位のアンデットには負けることはない。いかんせん、数が多い。加えてレジスの武器である短剣は骨であるスケルトンとは相性が悪い。短剣は俊敏な動きで、一撃で血管や、目など、急所を狙う武器だ。その急所の腐り果てたスケルトンには辛いだろう。 そしてもう一つレジスが慌てた理由。アンデットを使うことはそれだけで悪とされる行為であった。その目的が何であれ、死者を呼び覚ますのは均衡を壊す事になるからだ。少なくとも正規の魔術師が行うことではないない。 ガドフリーは荷馬車に乗り込んだ。 「だめだあけるな」 「聖女殿」 棺が空だった。続けてもう一つの棺を開く。そちらもまた空であった。 「く」 レジスの身体がスケルトンに掴まれ、馬車から飛び降りたバドフリーの前に突き出される。 「聖女はどこだ?」 「え、だってさっきそこに」 「あなたも利用されたようですね」 ガドフリーが手を上げるとスケルトンは墓石の影に戻っていく。 レジスを離すとガドフリーは町の中に戻っていくのが見えた。 「まったく」 レジスは座り込んだ。 「そういう作戦なら話してくれてもいいのに」 不意に自分が墓場に一人ということに気付いて、レジスは慌てて立ち上がった。 「速く戻ろう」 棺をしまおうとすれば、 「助かりました」 いなかったはずの棺の中からフェイトが姿を見せる。 「あれ?」 「ちょっとした感覚欺瞞です。透明化と、静音というもので、割合初歩の呪文ですよ。声を出したり攻撃をすれば一瞬でとけてしまうんですけどね」 「あの状況でよくそんな事をするなあ」 「彼女を起こしたくなかっただけですよ」 耳をすませば安らかな寝息が聞こえてきた。 アルは眠り続けていた。 |
---|