NO3
祖の  
 森にて

その1

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3




「こっちか」
  アルは背後に向かい尋ねた。
 ドラゴンは叫びめいた声で答える。
「そういっていますね」
  間を置いて翻訳が入る。
「うむ上等上等」
  アル・ナスラインは満足気に自分のやや後ろについてくる魔術師フェイト・クローナと、ドラゴンの子を見た。
  祖の森は、周り、世界が全て樹木で包まれたような、暗鬱な世界であった。
  それも当然だろう。この森は森の神であるオルオロネ。エルフたちの主神である彼女が最初に作った森といわれている。だから人から見て暗鬱と見えるその世界のいたるところに生命がある事も分かっている。時折、こちらを監視する存在もあった。恐らくこの森に住むエルフだろう。悪意をできるだけ感じさせないように、ほとんど火も使わず、森を傷める事は避けているが、それは人間から見たものだ。エルフからすればどうかは分からない。
  アルは空を見た。
  森の木の葉の間からみえる空は狭く、井戸の底から世界を見上げているようだ。
  昔、景色を見たことがあった。
  あれは。そうだ。洞窟に落ちて空を見上げた時だ。彼女とその恋人ロディ、いやまだその時は恋人ではなかった三人でこうしてみていた。
「アル」
  声が聞こえた。
  それは懐かしくも失われた声。
「シア」
  そんなわけはなかった。遠く異界に消えた、初めて仲間と呼べた人間の声。
  森は消えていた。
  いつの間にかアルは一人丘の上に立っていた。丘には大きな樹が生え、塔のある街を見下ろしている。そこは魔術師の街。
  彼女が修行していた街だ。一週間に一度あまり、その自由時間にこうやってよく迎えにいったものだ。
  大きく振った手が街の方に見えた。処女雪のようにきれいな髪が揺れた。そして人懐っこい青い瞳。
  シャイア・アルフィード。
「シア」
  近づいてきた体がほとんどタックルのようにアルを押し倒し、
「ごめん飛翔の呪文失敗しちゃった」
「かわらないな。シア嬢」
  二人は向かいあい大声で笑った。いつもと同じ事のはずなのに、どうしてこんなにも涙が出てくるのだろう
「どうしたのアル」
「何でもない。どうしてだろうな」
  シアの顔を見るアルの瞳から涙は止まることはなかった。

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