NO2
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「まあ、この街にいるなら余裕だな」 アルは呟いた。 今回頼まれたのはドラゴンを探すことであった。 ドラゴンは非常に長命な一族だ。平均で千年あまり生きるそれは非常に強力だ。その巨体から繰り出される一撃は城壁を崩し、その咆哮は海を割るという。その巨大な竜がこの街にいて見つからないわけはない。探しているのは小型の竜であった。パペットドラゴン。玩具の竜と呼ばれるそれは大きくても1mにはならず、金持ちならばペットとしても飼う事がある。 そんなパペットドラゴンが逃げ出したのだ。 大した件ではないのでレジスにでも回そうと思ったが、依頼者のバーソロミュー卿の言葉で霧散した。彼はフミヨの人間だという。加えて無事にドラゴンが戻った暁には案内してくれるというのだ。加えて神殿への寄付も悪くはない。 アルにかかれば、そういった探索はお手のものだった。 アルは目を閉じ意識を集中させた。心の中に想像した目を見開く。それはアル個人では知りえない万物を捕らえる神の目だ。 経路は分かった。加えて地元であるこのシムルグの街の事はよく分かっている。 町の路地の一角にそのパペットドラゴンはいるはずだった。 予想通り角を曲がると声が聞こえてきた。 「どけどけ」 前の方から鋭い声がかかった。 アルの元に飛び込んでくるのは小さなドラゴンだった ドラゴンはアルを見ると嬉しそうに啼きアルに飛び込んでくる。 数本の矢がドラゴンに向かい向かってくる。それは同時にアルにも向かってきているということだ。 アルは障壁を張り巡らした。攻撃できない代わりに一切の攻撃を防ぐ絶対障壁は、虹のような光沢を見せて矢を防いだ。 「そのドラゴンを渡して貰おう」 「いきなり矢を撃ってきて謝罪もなしですか?」 現れたのは数人の男だった。革の鎧に腰には独特に湾曲した短めの剣。日焼けしたその様は海の男であるのは明らかだ。 「渡せ」 「離れたらいいのですが」 アルは呆れたようにいった。ドラゴンの幼生と思われるそれはアルの腰に尾を巻きつけ離れようとしない。 「どうするか」 アルが見ると竜は黒曜石のような目でじっと見つめ返してくる。 「か。かわいい。いかん、わしは何をいっているのだ」 我に帰りアルは男たちを見た。 「私はアル・ナスラインともうします。このドラゴンはどういう仔細があって追いかけられているのでしょうか」 「仔細だあ?」 「ドラゴンはモンスターの中でも特に恐れられるものですが、知識と意思をもったものです。物品扱いするのはいろいろな意味で危険な存在です」 そういっている側でドラゴンはアルの髪で遊んでいるので説得力があまりない。 「それはパペットドラゴンだ」 「とにかく渡して貰おう。そいつは絶対に必要なものなんだよ」 「もしこちらに渡していただければいい値を払いましょう聖女殿」 振り返れば黒髪黒目の青年がいた。先程の魔術師とも思ったがそうではない。その青年が持つものはもっと強いものだ。それは相手を威圧する気配であった。 「お前はガドフリー。邪魔するな」 「邪魔はそちらだろ」 その声はこれといった脅しを含んでいないのに、男達が怯むのが分かった。怖れられているということだろう。 |
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