NO2
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「どちらもこめんこうむるな」 アルは指を鳴らした。小さく音を立て光が爆ぜた。 本来は退魔浄化の光だが、目くらましには十分な眩しさだ。 顔を抑える人間の合間を抜け、アルは走り出した。 さっさと街角を抜け走り始める。 10分あまり走ったろうか。追ってくる気配はなくアルは足を止めた。 「そろそろ離れろ」 ドラゴンに向かっていうと、 「いい逃げっぷりですね。神職にしておくのはもったいない」 ドラゴンが喋ったと思った瞬間、アルは苦笑した。そんなわけはない。誰か人間が魔術を使ってのイタズラだろう。 「誰だ?」 振り返るとそこには魔術師が立っていた。 ドラゴンはアルの背に隠れるようにしながらも、気になるようで顔を出して状況を眺めている。 大神殿で会った事を思い出し、アルは目を細めた。 「どうしてここに?」 聖女らしくひそやかな声で尋ねる。 「ちょっと雇われまして。あなたもそうではないんですか?」 「確かにわたしは正当な依頼を受けてこのパペットドラゴンを探していました」 「本当にそうだと思っておられますか? 聖女であるあなたがそうして動いておいでなら、それなりの、いいえかなりの代価が支払われておいでですね。パペットドラゴンは高いといっても、100G程度。あなたを一日拘束するでものその程度の報酬は出て行くはずだ」 「報酬ではなく、寄進ですわ。神殿に対しての。それにかわいい生き物でしたらそれくらいのお金を払っても当然と思いますよ。時折、怪我をされた動物を運ばれてきて、癒しを求める方も時折いらっしゃいますし」 「そうですね。彼らは家族同然に扱われる事はすくなくない。では、そのドラゴンの名前が一度でも出ましたか?。子供の頃、動物を飼った事はありませんか? みな賢くって名前を呼ぶと来るものですよ。では探すときに名前は手がかりになるとは思いませんか」 確かにバーソロミュー卿からドラゴンの名が出る事はなかった。 「どういうことでしょうか?」 聖女から本来の顔になると魔術師をにらみつけた。 「それなら魔術師を雇っている方がおかしいのではないでしょうか。あなたもどなたかに依頼を受けてこうされているのでしょ」 「そうですが大した事はありません。ただ、喧嘩に勝つためですよ」 「一声で一軍を倒すほどのものがいる魔術師をですか?」 「ええ。あなたの持っているドラゴンも、ここにいるのも、理由はただの喧嘩です」 「信じられんません」 「そうですか? あなたや私から見たら個々人の喧嘩も、戦争も変わる事はない」 「そういう哲学的な会話は遠慮して貰いたい。理屈ではなく今欲しいのは情報です。それも偽りのない」 魔術師は少しばかり黙った小さな声でいった。 「代価が欲しいですね」 アルは目を細めた。こういう事になるのなら聖女の顔をしているのは無駄だろう。 「代価か。それならいい代価がある」 アルは瞳に尊大な色を見せた。 その表情に魔術師の顔は少しばかり驚いたようだった。 「それは?」 「顔と名前を憶えた。あまり物覚えがいい方ではないんだ。許婚候補の中で名前と顔まで覚えられるのは多分一人だぞ」 もし断ればそれを縦にやや手厳しいマネをするつもりだった。 「それは魅力的ですね」 あっけなく魔術師は言った。 「ああ、名前なんだっけ?」 「フェイト・クローナです」 「分かった。ではフェイト、情報をもらおうか」 「フミヨという街をご存知ですか?」 「ああ」 手紙が来ている事を思い出した。 「確か手紙がきていたな」 「フミヨは今二派に別れて争っています。バーソロミュー卿はその一派の統領ですよ。そしてもう一派の長ランドウルの依頼で動いています」 「ほ〜う」 「それとこれがどう結びつくのかな?」 パペットドラゴンは楽しそうにアルの髪の毛をいじっている。 「それには彼と話をしたいのですが。実のところ、依頼の内容としてはただドラゴンを奪うことだけで、内容までは周知していないのですぞ」 「ああ構わないぞ」 アルは無造作にドラゴンを離した。フェイトはドラゴンを受け取ると奇妙な発音で話しかける。ドラゴンは驚いたようだがしっかりと言葉らしいものを返している。 「彼はゴールドドラゴンの幼生です。詳しく言うのなら、祖の森のね」 「ほう、ますます興味深いな」 「彼はそこから連れて来られたそうです」 「祖の森。あのエルフ族発祥の聖地だな。あそこに侵入する手間というか行為を考えればわしや魔術師が雇われてもおかしくないな」 アルはドラゴンを見た。 「なあ家に帰りたいか?」 「え」 「えじゃなくさっさと翻訳してくれ」 フェイトはさっさとドラゴンにいうと頷く。 「帰りたいそうです」 「決定だな。フェイト師、ちょっと旅にいかないか?」 「どこにですか」 「決まっているじゃないか。祖の森だよ」 |
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