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決意の戦場

その1
その2
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その4
その5



 

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決意の戦場

 青い光が部屋を覆っている。この部屋に戻ってくると体に活力が戻ってくるのがよくわかる。光も部屋に満ちる香気も、体を回復させるのに適したものだからだ。
  墓石めいた石でつくられた寝台にフェイト・クローナは腰掛けた。
「見逃されたか」
  今こうしてここにいるのはそんな理由なのはわかっている。
  いくつか作ってある隠れ家のうちもっとも見つかりにくいここも、ずっと追跡されていれば決して見つからないとは言い切れない。
  随分回復してきたのを感じながら、念を入れて懐から取り出した霊薬を飲むと、初めて考えがスムーズになってくるのが分かる。
  トリュファイナが見逃したのであろう。エリクだけなら逆に危なかったかもしれない。エリクはむしろトリュファイナといたほうが、脆い気がある。
  人は守るものがあるから強いわけではない。時にはそれは弱みにもなる。
  だが、エリクは気付いているのだろうか。今の自分の位置が、帝王と同じであることに。月の巫女の加護を受けた恋人たる戦士。乱世の中で、その事実がもっとも若い戦士であった帝王の後ろ盾であったことに。
  フェイトは石で作られた寝台に寝転がった。
  結構な力を最近たて付けに使ったせいで眠気が体を包んでいる。
「まあそれでもいいか」
  奪ってきたものをフェイトは見つめた。
  デスマスクを思わせる白い女の仮面。それはディラハム神がこの世に現れたとき残していった遺物だった。太陽の騎士と月の巫女が世に名前を知らしめた事件。その際に落としていったものとされる。
  ディラハム、魔術王と呼ばれるかの神はもっとも新しい神といわれている。翼を持つ人々、人では発音できない為にANKという彼ら自身の綴った文字から呼ばれるその一族から抽出された魔力により出現したという。
  ANKから魔力を奪っていたのは、新王朝ドリアスであった。魔装騎士といわれる大型のゴーレム数百体を持つその王国は、ドラゴンを操った龍王朝とぶつかり合い、覇権を求めていた。さらなる戦力の強化を求めてANKを襲った。民族採生によりANKという種族は滅びたものの、奪われたその魔力を意思を持ち、一人の魔術師となったという。その女の仮面をつめた魔術潮により、ドリアスであった場所はいまではどこか分からないくらい完全に破壊されたという。
「フェイト」
  フェイトは呼びかけられ、すばやく立ち上がった。
  そこに立つのはエルフ。義母であるニアヴだった。
「母さん、どうしてここに」
  知らせてはいないはずだった。
「あの人が残した場所の一つでしょ」
  そういわれてフェイトは黙った。確かにここはもともと養父が発掘した遺跡の後を改装してつくったところだ。
「確かに。でも、どうしてここに?」
「あなたにお別れをいおうと思って」
「母さん?」
「あなたはもう自分の時間を生きなさい」
「母さん」
「あの人がいなくなって長い間、あなたは自分の時間を止めて私と一緒にいてくれた。でも、もういいのよ。あの人たちと同じ時間を過ごしなさい」
「そんな風に思ったことはありませんよ。それに、そうしたのは大魔術を使うために魔力をためるためで」
  フェイトはいってからニアヴの視線に黙った。
「確かに母さんを一人にするのが心配だから睡眠時間を増やして老化を遅らせたのは本当ですけど、決して母さんの為だけではありませんから」
「分かったわ。そういうところは、血がつながていないのに本当にあの人にそっくりだわ。心配をかけさせまいとしてかえってこっちに心配をかけるの」
  フェイトは苦笑した。
「少しだけ眠ります。何かあったらアルを助けてあげてください」
「ダメです。できるだけ早く起きて自分で助けてあげなさい」
「分かりました」


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