NO9
決意の戦場

その1
その2



 

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決意の戦場

 城壁は一瞬で消え去っていた。
  先程まで確固としてそこにあり、人々の生命と、何より安息を与えていたその境界は何もなかったかのように塵と化していた。
  壁のあったところからは高熱のせいか、熱せられた空気が陽炎を見せている。
「人々を家に、警戒を怠るな」
  ロディ・ファーランドの命令に兵士たちは声を上げる。
「命令があるまで待機」
「団長お一人でですか?」
「ああ、中の事はお前に任せる」
そのロディの言葉に数人の騎士たちは剣を振り上げて答えた。
「ありがとう」
  ロディはゆっくりと街の外に出た。酷い暑さは城壁から離れるに連れ、減っていった。
  そうしているうちに片手で持った大剣は少しづつぬくもりが伝わり、自分の一部のように思えてくる。
  敵が魔術師なら、相手が呪文を完成させる前に一撃を放つ。その瞬間の為に力を蓄えておく。
  先程まで晴天だった空は曇り始めていた。町まるごとひとつが燃えるような大火の時は、その熱で気候が急変し、豪雨になるときがある。そんな兵法の一説を思い出した。
  それだけの高熱。直撃すれば死は免れないだろう。
  昨日まで沃野であったであった町の外は砂漠のように細かな砂とかしていた。その砂漠の中に一人の魔術師が立っていた。黒いローブに身を包んだその姿は不吉を思わせた。だが、その手にある竜頭のロッドはロディの目を釘付けにした。
  そう彼女にプレゼントしたものだ。シャイア・アルフィードに。
「シア」
  ロディの声は震えた。魔術師はフードをずらした。
  処女雪の白さを持つ髪。宝玉のような瞳。その姿をロディはしっていた。一度は自分の腕の中にいた少女。そして消え去った少女。
「久しぶりねロディ」
  シアはそういうと笑った。
「元気そうでよかった。正直、戦争になるのは避けたかったから」
「避けたかった?」
「ええ。ああすれば、あなたの性格からいってこうして出てくると思ったわ。だってロディは仲間思いだものね。こんな未知の危険を相手に、仲間を巻き込まない」
「シア?」
  シアは魔術師のロッドをロディに向けた。
「味方になってほしい」
「僕は君の味方だよ」
「分かっているわ。そうじゃなくてフミヨの味方になって欲しいの。フミヨはそれなりの支持を得つつあるけれどもね、まだ表立って支援を約束した国はないし。でも一対一程度の戦闘なら構わないと思っているわ。城壁を失いあなたを倒せば町は落ちたも当然だもの」
「それはできない。あの聖山での一件が、君たちの仕業だと分かっている。でも、改心してくれるなら、いくらでも力になる」
  シアは手を振った。呪文はない一動作。それだけで大気の中の水分は凍りつき、氷の嵐がロディを襲う。
「ちい」
  ロディは剣を抜いた。氷に触れた瞬間、ロディの剣が輝き氷の嵐を跳ね返す。
「四位階程度の呪文なら防ぐわけね。さすがは黒騎士」
「シア、もうやめてくれ戦いたくない。君がいかに強力な魔術を使っても僕には届かない」
  シアは少し考えるように眉をひそめ、
「ロディ、あなたは魔力をもつだけで、魔術を知るわけではない」
  聞いた事がない発音がシアの口から毀れる。それは強力な呪文でありながらそれ以上の何かであった。
「狂熱の骸」
  呟いたシアの前に炎が現れ、その中に数多の骸骨が見える。それはロディに襲い掛かった。
「く」
  ロディは剣を振るった。切っ先から発せられる魔力の塊が炎にぶつかる。だが、炎は魔力を食いつくし、ロディに迫る。
「くっ」
  ロディの身体は炎に多い尽くされた。
  よほど高い抗魔力がなければ一瞬でも耐えられない威力だ。その炎の中で数多の骸がロディを喰らい尽くそうと暴れている。
「魔力を食われるなら」
  だが、ただの剣撃だけでは躯はまったく影響を受けないようだ。
  巻き上がった熱に耐え切れなくなったのか空から雨が降り始めた。
  シアは呟く。
「空の贈り物ね。苦痛を長引かすだけかもしれないけど」


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