NO6
明日への来訪

その1
その2
その3
その4
その5

 

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 こもっている島と聞いていたせいで、むしろ北の島を思い浮かべていた。空は常に曇っており、波は荒く、いつも泊まれる港もない。人々はみな陰鬱で、重苦しい雰囲気の中、かろうじて生命をつなぎとめている。
  というのをアルは想像していた。
「こもるって理由は保養か」
  アルはつぶやいた。
  だが、来たのは、椰子が生え、白い砂浜の広がる美しい島だった。青く澄んだ海はきれいな色の魚が日の光を返しながら泳いでいる。
「違いますよ。ここはジャック・アーヴィングが復讐者となり、エリク・チェンバースが太陽の騎士となった島。この砂浜で、魔術師は、ブロッサムを奪い去っていたんです」
「詳しいな」
「魔術師ですからね」
「本当か。魔術師なら必ず知っている類の話とは思えないが」
  アルはいじわるく笑った。
「正直なところ、調べていました。いずれぶつかる相手ですから。太陽の騎士は」
「え」
「冗談ですよ冗談。それは事実帝国に挑むということですからね。まだ死にたくないですから」
  フェイトは笑った。
「俺は今でもいいぜ魔術王」
  姿を見せたのはエリク・チェンバースだった。貫頭衣姿で、どう見ても太陽の騎士といわれる姿ではない。手にある剣『闇払う陽の標』だけが戦士らしいものだ。
「魔術王じゃありませんよ。魔王といわれることはありますが」
  フェイトはいつもの口調でいった。
「はあ、まだ言い訳するのか」
  エリクの拳が振るわれた。それを正面から受けてフェイトは吹っ飛ばされる。
「フェイト氏」
「ちょっと待てエリク。アルさま?」
「これは忠告だ。今度俺のま・・・」
  今度、宙に舞ったのはエリクだった。そう一撃を食らわしたのはアルであった。さっさと踏み込み渾身の一撃を叩き込んでいる。
  エリクは言葉を一瞬失った。
「聖女さま?」
  思いがけぬ一撃は警戒していなかった向きからの攻撃で思わぬ痛みを与えている。
「魔術師相手に、太陽の騎士ともあろうものが拳を振るうとは何ですか」
「その騎士を殴り飛ばす聖女の方がどうかと思うけどな」
  エリクは立ち上がった。アルは笑った。
「結局、太陽の騎士だの何といったところで、しょせん男だ。拳で語るほうが早いのだろ。わしが相手になってやる」
  アルは指を立てた。
「いいですよアルさん。僕が殴られたんですから」
  フェイトは身構えた。
「来いよ」
  殴り合いが始まった。

 最初は立って見ていたアルとフェルティアだったが、いい加減二人は座り込んだ。
  日が長い影を二つ残している。昼過ぎから始めたはずの殴り合いは今でも続いている。
「大丈夫なのか」
  アルはつぶやいた。どちらかといえば短期で戦いを終わらす事の多いアルには分からない事だ。
「どうなんでしょう。よくがんばりますね」
  フェイトの声が真横でした。アルが振り返ればそこに立っているのはフェイトだ。
「?」
  だが、エリクも戦いを続けている。
「幻ですよ。太陽の騎士相手に素手とはいえ勝つのは無理ですから」
「エリクは別に剣がなくても強いからそれは正しいと思いますが」
「それにしたって。では、あのエリク氏はいつまで戦っているのだ」
「もういきますよ」
  フェイトの姿が消えた。
  同時にエリクの拳がうなりを上げ、フェイトを地面にたたきつける。
「俺の勝ちだ」
  倒れているは腕を差し出した。
「だが、見直した。これだけ根性あるんなら今回限り力を貸してやる」
「これ以上ないくらいにだまされてますね」
  フェイトはいった。
「今までの戦いは幻ですよ」
  フェイトの真横に、まったく同じ姿が現れている。エリクの顔色が変わった。
「てめえ」
「あなたが思っているような敵だけではないのが分かりましたか?」
「くそ」
「エリク、一度言ったことは守れ」
  フェルティアの言葉にエリクは小さく舌打ちした。
「分かったよ。手は貸す。しかし条件がある」
「なんだ? エリク男らしくないな」
「そいつは抜きだ。仲間の敵と一緒に戦うほど俺は腐ってない」
「分かりました。確かに彼が今回いなくてはいけない。私は遠慮しますよ」
  フェイトはそういうと軽く一礼した。



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