NO6
明日への来訪

その1
その2

 

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レジスは腹いっぱいになるまでご馳走を食べあさった。肉料理を中心にした食事はボリュームもあって、うまいものが多く、一年分くらいの肉を食べたような気がする。
  アルを探して宴の中をうろうろすると、窓際で壁の花になっているアルに気づいた。ひっそりとした様で宴に騒ぐ人々を見ている様子はどこかさびしい。
「食った食った」
  明るい口調でいうとアルはあわせたのか機嫌よく笑った。
「おお、よく食べたみたいだな。それはよかった」
「アルちゃんは?」
「わしはいい」
  アルの手にはまだ減っていないワインしか見えない。
  アルと同じように壁に寄りかかり、宴の中心になっているロディを見た。
「しかしアルちゃんにしては随分と親しそうだったね」
「そうか? わしは基本的には誰にでも社交的だが」
「聖女っぽい社交と、今みたいな姿があるじゃない。そっちの方で親しげにしているのってあまり見たことないんだけど」
「むう。ロディはわしが最初の冒険に出た仲間なのだ」
「ああ、それで。アルちゃんも最初のパーティがあてんだね」
「本当にありきたりのパーティでな」
  アルの声が優しくなる。
「へえ」
「戦士と魔法使い二人と神官と、ガンスリンガーと」
「ありきたりじゃないよそれ」
「そうかな。まあ、街近くの洞窟なんてところは本当に冒険らしい」
「それはまあそうだね」
「魔王やらANKとあったんで驚いたものだ」
  レジスの顔色が変わるがアルは気に留めず話し続けた。
「魔王にANK?」
  魔王はずば抜けた魔術師の名でもあるが、同時に魔物の王を示す。ANKは古代に滅びた種族である翼持つ魔の一族だ。
「魔王はまあ今はもう消えたし、もう一つはただの有翼人かもしれないが。とにかく古の存在だ」
「それ絶対に最初の冒険じゃない」
「まあ、そういうな。しかし冒険らしい冒険はあれっきりでな。どうしてあんなに仲良くなれたのか今だと不思議な気がする」
  アルは黙った。
「ちょっと風を浴びてくる」
  レジスにワインを押し付けて、ゆらゆらとアルはテラスに出て行った。

「アルちゃん遅いな」
  ワインはレジスの手の中ですっかり温まっていた。ちょっと風にあたってくるいといいながらなかなか戻ってこないアルにレジスはテラスの方を見た。
「心配ですか?」
「そうそうアルちゃん、気丈そうに見えて何でもできるけど脆そうなところあるからね」
「随分、わかってらっしゃいますのね」
「まあね」
「それ以上に付き合いが長いのになぜかいつまでも気づきませんのね」
  レジスは振り返った。そこにはフェルティアが艶やかな笑みを浮かべて立っていた。
「フェルティア」
  フェルティアはそれほど華美でないが、こったデザインのドレス姿だった。長身のフェルティアはこういう場所でよく目立つ。
「こんばんわレジスさま」
「こんばんわ」
  少しばかり愛想なくレジスはいう。がっとした言い返しを予想したレジスの前でフェルティアは悲しそうだった。
「おい、どうしたんだ?」
「いえ。いつも冷たくされるのは私の立場を考えてくださっていらっしゃるのかと思ったんですが違うのですね」
  フェルティアは背を向けた。
「それなりに私の家は大きい家です。当然跡取ですからいろいろと衆目もあしります、やっかみ半分で告げ口される方もいます。そちらに気を使って冷たくされるのかと思っていました」
「え、いや」
  その通りだった。レジスがいつもフェルティアに冷淡な態度をとるのは。でも、その冷淡さは仮面になって自分の顔を今でも覆ってしまっていた。
  ワルツが聞こえてきた。
  広間の中央ではもう踊りが始まっている。
「そうだな」
  ここはいつものシムルグの街ではない。知っているものも多くなく、たとえ見られても正式に客人としてきている自分なら他の国の令嬢を誘う資格がある。
「すいませんお嬢さん。踊っていただけませんか」
「はい」
  嬉しそうにフェルティアは笑った。


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