NO6
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z 明 |
「よし」
アルは小さく呟いた。 戻ってきたらレジスとフェルティアの姿に気づき、邪魔しないように隠れていたのだ。二人揃って人前だと意地をはる傾向があるので、まったくしょうがない。正確にいうなら、フェルティアがここにくるのも掴んでいた。そのためにレジスにそれなりの立場を提供したのだが。しめしめというやつである。 宴は円舞曲に導かれるように、すっかり雰囲気が華やかなものになっている。 「さて、そろそろ退散するかな」 アルは宴に背を向けて再びテラスに出た。夜風が薄手の装束に少しばかり肌寒い。 「少し張り切りすぎたかな」 ・・・見せる相手もいないのに。 「アル」 ロディだった。 「主賓がこんなところでサボってはいかんな」 「もともと向いているわけでもないしね。まあしょうがないのだけれど」 「お互いに急展開だ。一年前まではただの冒険者だったのにな」 「僕はね。でも、君は出会ったときから既に高い位階にいたし」 アルは苦笑する。 「あの時は中途半端な立場だったからな。でも、レテが見捨てないでいてくれたから今のわしがいる」 「そうだね」 アルはロディの顔色に気づいた。疲れてきているのか、顔色がよくない。 「怪我なら癒すが」 「いや、そういうのじゃないのだけれど。頼みがある」 「かまわない。といいたいところだが内容をまずは聞かせて欲しい。安請け合いはあまり好きではないのだ」 最近そのためにあったひどい記憶が脳裏を掠めた。 「そうだね。フミヨの事は聞いている?」 アルは何といっていいか思いつかず、曖昧な笑顔を浮かべた。さすがに関係者といえる雰囲気ではない。 「まあな」 「もともとあそこは交易都市だったんだけど最近どうもおかしい。あの都市は領地を持たない事で、河での自由を得ていたのにそれを放棄するような真似をしている」 「ほ〜う」 アルはフミヨの事を思い出していた。懐にはまだ世界樹の樹皮もあることだし、油断はしない方がいいかもしれなかった。 「ただ、あそこだけじゃない。フミヨ以外、何箇所かで似たような事例が見えている。まるで戦争を起こすための挑発行為のようなね」 「しかしな。基本的に帝国がある以上問題はなかろう。帝国を倒す事ができるだけの軍備も魔術も存在はしない」 「帝国は月。天后たるムーアを主神として在る」 「その通り。ムーアが司るのは世界の影にあって見えない諸力だ。その力を操るが故に帝国は強い。アシウス帝、シャレム后を頂点とし、月の巫女や、その一門の力は恐ろしい。特に魔術を使うものはな。戦士は魔術師に弱く、魔術師は帝国に弱い」 「明らかに力もないのにフミヨはああしている。恐らく何か隠している事があるのだろうが。フミヨの技術はまだ未知数だが、だいたい分かっている事がある。フミヨが動くいているのは、現行の魔術ではない未知の技術だそうだ。その技術が自信につながっているとだと思うと」 「つまり帝国が凌駕される可能性を考えているのだな」 「そうなんだ。アルは正直どう思う。これは僕等の考えすぎかな」 「いや。そんなことはない。それより僕等の等の部分が気になるな。誰が背後にいるのか教えて貰いたいな」 「そうだね、帝国の一部といっておくよ」 「まあ、わしには関係ない。まして帝国が知っているのなら、問題はないだろう」 「そうでもないんだ。逆に表立っていないところで困っている事が起きている」 「なに?」 ロディは声を潜めた。 「ある地域に死病がはやっている。それが起きた数日前、フミヨの宰相を名乗る男が聖域の中央の山に参拝の名目で侵入して何かをしたらしい」 「バネット・ガドフリーか」 「え?」 「あ」 アルは思わず尋ねてしまった名前にそっぽを向いた。 「やっぱり知ってたね。どんな相手だった?」 「殺されかけた。逃げたというのが正直なところだ」 ロディは険しい顔になった。 ロディはアルの能力を知っている。そのアルが逃げるまでの状況になったと聞けば、そうなって当然だろう。 「どんな場所なのだ。聖女としていくのは吝かでないぞ」 聖女として行くのは癒しが中心になるのでそんなに嫌いではない。 「神殿を中心とした山があるのだけれど、先週から疫病が流行り始め、今はもう人が入り込めない」 「聖女ではなく冒険者としてか」 「できれば自分でと思ったのだけれど。明日からは帝都にいかなくてはないならないし」 「それは仕方ないだろう。もう立場が違うのだから。分かった、レジス氏と調べに行こう」 「助かる」 「助けはいりませんか」 穏やかな声がかかった。 アルが振り返ればそこにはフェイト・クローナの姿があった。ロディはフェイトの顔を見て一礼した。 「必要ないな」 どこか冷ややかな声に間に立つロディが固まる。 「あのアル、フェイト・クローナさんは、その最高に近い魔術師で協力があれば、とても助かると思うよ」 「知っている。だがな、わしは黙って消えるような奴は嫌いなのだ」 「ごめんなさいねアルさん。そういうつもりはまったくないのだけれど、どうもあまりしっかりしたように育てなくてアルさんには迷惑をかけたようね」 アルは声の主を知っていた。 「ああ、ニアヴ嬢ではないか。ひさしいな」 一度は冒険を共にした仲間だ。といってから先程のニアヴの言葉を脳内で反芻する。 「育てた?」 「母親です。養子ですが」 「ああ」 アルはうなずいた。確かに初めて出会ったときに母親の紹介のようなことをいっていて、随分とみっともない男だと思ったものだ。 「それなら分かる。だが、今回同行するにあたり、約束して欲しい」 「なんです?」 「黙っていなくなるな」 「分かりました」 フェイトは頷いた。 |
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