NO6
明日への来訪

その1

 

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アル・ナスラインは衣装を調えた。純白の薄着に、レテ女神の瞳の色を重ねたドレスは、古式にのっとったものだが、ややすけている生地は見ようによっては艶がある。ただ、アルの平坦な体ではそういった婉はない。



作:積木さん

「おまたせ。本当にこんなので出るの」
  レジスが入ってきた。鎖で編まれたチェインメールで、戦闘に使うものとデザインは変わらない。だが、その鎖はすべて銀で作られており、細かな彫刻が彫られている。
「むう、なかなかの変身ぶりだレジス氏。フェルティア嬢も惚れ直すぞ」
  レジスは複雑な笑顔を浮かべた。
「褒めてくれるのは嬉しいけど。どうしてフェルティアの事が出るのかな?」
「それは当たり前だろ。洞窟から帰ってきたと思ったらすぐに家に戻って仕事に入ってしまった友人を脳裏から消し去るほどわしは薄情ではないよ」
「エリクはいいの?」
「ああ、彼にも悪いことをしたな。随分と急いで戻っていったが」
「任務の途中に抜けてきたみたいだからね」
  レジスはいうと、からかうような笑みを浮かべた。
「アルちゃんもなかなかの変身振りだよ」
「聖女ですから」
「それいろいろな意味で聖女の発言じゃないと思うよ」
  アルはレジスの手をとった。
「さあ、騎士さま、参りましょう」
  そういって二人で猟場に潜り込む。
  広間には多くの貴族たちがいた。裕福な商人や、騎士。 その中でもアルとレジスはそれなりに目立つ。
「本当にこんな格好でいいの?」
「大丈夫。ロディは心が広いからな」
「その相手の心の広さを期待する時点で怒らす気満々なんだけど」
  本日の主役であるロディ・ファーラントはまだ姿を見せていなかった。
  試練の洞窟から戻ったアルは借金を清算したところで、たまっている用件を思いだしていた。
  ドラゴン探しやフミヨ行きの前に見た手紙には、旧知の中であるロディ・ファーランドが騎士団長になる旨が記されていた。それにはお祝いの日時も書いてあり、ちょうど旅をするのにいい距離であったのだ。 フェルティア、エリクにも声をかけようとしたが、二人ともすでに去った後であった。そこで手の空いているレジスと来たのだった。
「ロディさんってどんな人?」
「一言でなら友達になりたい奴かな。レジス氏にもそういうところがあるが、それよりも更に自然だ」
「俺不自然かな?」
「時折レジス氏は傷つけないために優しくなるが、ロディは常に優しい」
「そうだね。優しくしてごまかしているかもしれないな」
「悪いことではないのだぞ。むしろ美点だ。わしは逆に不公平であろうとするとなぜか公平に振舞ってしまう気があるからな」
  拍手が聞こえた。
  現れたのはロディ・ファーランドだった。
  さっぱりとした短髪に、済んだ空色の目。アルの三倍、レジスの倍ほどは大きい戦士らしい体躯だ。その身体を包む騎士団長の正装はどこか窮屈そうに見える。
  何人もの挨拶を抜け、ロディはアルに向かい歩いてくる。
「アル、久しぶりだね。来てくれてありがとう」
「久しぶりだなロディ氏。出世したものだな」
「出世というか。兄二人が結婚したり昇進したりして三男の僕しかいなくてね。できれば冒険者を続けたかったんだけど」
  ロディはアルを見た。
「ああ、こちらはレジス・シャール。商人で最近、よく相手をして貰っている」
「ああ。アルもついにいい人が見つかったんだね。よかったよ」
「いい人か」
  アルは満面の笑顔を浮かべるとレジスにべたっと体を寄せた。
「ありがとうロディ」
「本当なんだね。レジスくん、アルをよろしく頼むよ。彼女は意外と寂しがり屋なところがあって」
  ロディが黙り込んだ。アルの蹴りが衝撃を持って足を突き抜けていったからだ。それでアルも芝居をする気をやめ、レジスから離れた。
「ちょっと腹減っちゃって」
「ああ。いってきてくれ」
  離れていったレジスを見送り、ロディは口を開いた。
「ごめんごめん。ところで、今日のその格好は?」
「いやね。ちょっと目立つようにね。こうしておけばロディも探しやすいかと、正装してみました」
「どうもありがとう。一目でわかったよ」
「ところで今日は誰が来るのかな?」
「ああ、ニアヴさんも来てくれるって。マスターとキアさんはダメだってさ」
「そうか。それは残念だな」
  アルは小さく笑った。
「シアを探しているんだって?」
「ああ。でも見つからない。もともと、シアがあの時に生きていたかはわからない。していることが、決して論理的でないのもわかっている」
「人間はそれだけじゃないと思うよ。アルが気が済むまで探せばいい」
「そのつもりだ」
  アルはうなずいた。
 
 


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