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試練の洞窟。 元来、勇者しか赴くことを許されないとされている洞窟だ。短期間で人を強くするには欲を刺激すればいい。そう考えたわけではないのだろうが、試練の洞窟は異常に宝物が多い。そのため、一地域の経済を破滅させる事があるので激しく入場が制限されるが、時折発見される。 アル・ナスラインは洞窟を見ていた。最近開いたらしく、その洞窟の割れ目は新しい。その割れ目を通り過ぎて入れば、そこは自然の洞窟ではない。不思議となめらかな壁や床は魔術によるものだろう。 アルは後ろを見た。レジス、フェルティアの二人が距離を置いてついてくる。その足取りはあまり軽いものではない。 「さあ、一攫千金を求めてがんばろう」 アルは元気よくいうが、二人はそう気が向いていないようだった。それもそのはずだ。 フェルティアは金持ちというのがバカらしくなるような家の人間だ。アルが住むシグルドの街も、フェルティアの家であるアルフィスタ家の領地だ。そこから集める税は全てアルフィスタ家のものとなる。 レジスの方は、金が欲しくないわけではないが、とりあえずその日の食事と宿くらいと、仕入れの金さえあればいい立場なので、これまたあまり乗り気ではない。 ということで早急に金の必要なアル以外はあまり興味がないようだ。 「おいおい、二人ともせっかくの探検なんだからもっと明るくいこうじゃないか」 「それはそうですけど」 フェルティアはレジスを見た。 「レジスさまが」 「俺のせいじゃないだろ。どうしてついてきてるんだ」 「どうしてって。アルさまに頼まれたからに決まっているじゃないですか。もしかしてレジスさま、私がレジス様を心配して来ただなんて思われているんですか?」 フェルティアは意地悪くいった。 「えいや」 「すぐに的確に返答されないような、そんな頼りないレジスさまに、アルさまをお任せして、こんなところに送り込むわけにはいきませんの。アルさまは聖女なんです。シグルドの街がアルさまがいるおかげでどれくらいの恵みを受けているかご存知ですか? 資金源として、外交カードとして、どれだけご尽力いただいているか」 「いやその。俺だってそう思ったから知っている限り一番使える戦士を呼んだよ」 「どこにいるんですか、その戦士は?」 「来てないけど」 「ハク兄さまが一人で来れるわけないじゃないですか」 ハクはフェルティアのいとこで、レジスの友人だ。アルも何度か会った事があるがいい戦士だ。 「違う。ハクじゃない。エリクだエリク」 「エリクが来るわけないじゃないですか。トリュが手元から離すわけないですし」 次第にアルのしらない話に移り始めている。 二人が言い合っているのを見てアルは眼を細めた。 懐かしいというのが正直なところだ。 シア。心の中で呟けば未だその名は重い。シアといろいろなところにいった。二人だけの事もあったが、仲間はたくさんいた。でも、あの最後の、最後になってしまった旅は二人だけだった。 ◇ アル・ナスラインはバーg−gでカクテルを飲んでいた。 冒険者の立ち寄ることが多いこの店はアルのお気に入りだった。 飲んでいるファタ・モルガーナ。蜃気楼の美女の名を与えられたその酒は淡いが度数が高く、体の芯がぬくもる気がしてアルは好きだった。g-gのマスターはもともと冒険者で魔術師だというから、恐らくは薬草もいくらかは入っているのだろう。 何より静かに飲むのは心が休まる。 大きな音を立てて開く扉を開けて華やかに入ってきたのはシャイア・アルフィードだった。 白い翼と呼ばれる彼女は強力な魔術師だが、その体つきからは想像できない。魔術師にしてはそれなりに腕力もあるのだが、鍛えてあるといっても結局は年頃の少女だ。 「静かにしろシア。こういう酒は雰囲気が大切なのだ」 「見てみてこの地図絶対何かいわくありそうじゃない」 シアの話は唐突に始まることが多い。でも、そんな嵐のような精気をもっている様をアルは好きだった。 アル・ナスラインはシアの持ってきた地図を開いた。手が痺れた。この地図を作ったものの魔力が微かに残っている。 「どうしたのアル怖い顔して」 「いや。随分怖い地図だと思って。マスターはどう思う」 似合わないチョビ髭を生やしたマスターは目を細めて地図を見た。 「まあ。地図は地図だし。そんなに危ないものじゃないんじゃないのかな」 アルは地図に書いてある文を目を細めて読み始めた。 「ダルタロック神の祭儀場か」 「あまり聞かない神様だね」 「表向きは生と死の領域はフィリノス神のものだからな。ダルタロック神が治める死はアンデットを含んだいわゆる不浄の死だ」 「そんなとこなんだ。あまり汚いところ嫌だな」 シアの口調にアルは少しばかり安堵した。 「そうかいかないことにするのか?。正直、わしは進めない。この地図は妙な気がするのだ」 「それは別。だってこの地図すごい高かったんだよ」 シアは指先で値段を書いて見せた。 「値段で決めるのはどうかな。それだけの価値があるなら、どうして今まで誰の手も触れられなかったか?」 「危険って事? でも単純に運がいいのかも」 「運か」 「そんな皮肉な顔しなくたって。どうせ私は悪運よ」 かつての仇名。今でもまだ残る悪運の魔女の仇名はさすがにシアにも痛いようだ。なんといってもその噂(半ば事実)の為になかなか仲間ができなかったらものだ。 「分かったいこう。どうせ暇なんだしな」 シアに一人で行かせるより自分がいったほうがましなように思えた。 「そうそう危なかったら飛んで逃げればいいって」 「最近、空間制御を学んだからはしゃいでるな」 「でももう十分だもんね。マスター」 魔術師としては先輩のマスターにそういうシアだった。マスターは沈鬱な顔で言った。 「それは微妙だね」 「ええどうして?」 「欠点というか、シアちゃんの長所は魔力の多いところだよね。でも、魔力が多いからこそ制御が難しいのさ。腕力があっても、弓をうまく使えないのと一緒だね」 「はあ。そういうひらめきとか感性みたいなのってよく分からないんだよね。繊細な運用なんて苦手だよ。どかんとぶっ飛ばすのなら任せていて」 |
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