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「今日も売れないな」 レジス・シャールは呟いた。 自分でも思うのだが決して悪い品物ではないのだ。たとえば、この空気銃なんて魔力の大小によって回りの空気の蓄える量が違って、威力が変化するいい物品だ。割合、役に立つ品物で命を救われたのは一度や二度ではない。そしてこの空飛ぶホウキだって、魔術の品としては無論、チリトリつきの機能品で、ホウキとしても一級品である。だが、売れない。他にも解毒の杯とか、これはっと思えるものも多い。普通の店で買うよりかなり低価格なのだ。ところが売れない。 そろそろ宿に泊まるのは無理そうな所持金になっていた。 場所を変えるかとも思ったが、馬車が通るくらい広い道で悪くないし、問題ないと思うのだが、売れない。何度も通るたびに速度が遅くなる馬車もあるから、そこに客がいることもあるかもしれない。そう考えるとなかなか動けない。 人の流れの中によく見知った姿があった。 神官衣に身を包んだ金髪碧眼の少女アル・ナスラインだ。一見して疲れきっているのが分かる背中の曲がり方だった。 「あれアルちゃん、やつれてるね」 アル・ナスラインは笑みを浮かべた。 「ああ、レジス氏探したぞ」 それはどこか不吉なものをもって感じられた。アルに付き合うといろいろ危険なのだ。特に生命とか。 「どうしたの顔色悪いけど。しかし疲れているのは珍しいね。鉄面・・いや、いつも変わらないはずなのに」 できるだけアルが言い出す前に情報を得ておこうといった。 聞いてからでは断りづらい。まずは輪郭だけでもしらなくては。それによっては、言い訳がいろいろとできるものだ。 「まあな。最近災難が続いているのだ」 「災難? 何があったの?」 「ああ。ちょっととある国と事を構えてな」 国。いったいどんなトラブルなんだ。というかそれ関係で探しているのか? 「ところで冒険に一緒に」 ごまかそう。心の底からそう思った。 「アルちゃん、俺もそうしたいのはやまやまなんだけど、この品預かっているもので売れないとしょうがないんだよ」 「そうなのか。残念だ。手持ちがあればいいのだが、今はなくてな。むしろ稼ぐために冒険にいかなくてはならい雰囲気なのだ」 「残念だな」 レジスは本当に残念そうにいった。 「残念だ。ところで品物が売れればいいのかな?」 アルは品物の前で座り込んだ。神官がそうした場所に座っているのは珍しいが、まだそう目立ってはない。 「本当にそんな値段でいいんですか?」 アルの声はよく通る。何でも吟遊詩人が歌っている時に、近くで歌い始め、客全てを奪った経験があるという。 「でもそれでは、損ではないんですか。そうですね。では、まとめて大神殿に。え、いろいろな人に売りたいからそれは困る。なんて、いい人なんでしょう」 目の前ではじまった寸劇にレジスは言葉を失った。 「そんなに安いんですか?」 立ち止まったのは冒険者らしい大きなサックをしょった少女だ。 「ええ。だから神殿で買い取ろうとしたんです。でも、駆け出しの冒険者の方の為になりたいと」 「本当に? いくらですか?」 「一つ千ゼンです」 「安いですね。あのこっちのホウキは」 「えっとそれは一万ですね」 「本当に安い。ちりとりもついているんですね。じゃあ、それとそれ」 少女はさっさと品を選んだ。 「残念ですが、よかったら仲間にも教えて差し上げてください」 アルはいった。 「あの聖女さまですよね」 問いかけにアルは曖昧にほほえむ。 「わたくしも冒険者でしたから、気持ちは分かりますわ。こうしたものは独占したいものでしょうけど、こうした善行は天に蓄えをするするともいいますから」 「そうですね。仲間にも教えてきます」 少女は雑踏の中に紛れていった。 「売れて行ったな。きっとこの調子でがすがす売れるぞ」 「そうだね」 レジスは思わずにやけているのが自分でも分かった。 「まあ明日までに売り切れたとしよう。そしたら手も開くし一緒に冒険はどうかな」 笑みが止まった。 「危険なんでしょ」 「わしがいろいろと手立てを考えているからレジス氏は立っているだけでいいぞ。パーティー参加で人が足りないのでな」 「いやでもさ」 「そんなに忙しいならしょうがない」 アルは大きく息を吐いた。 「フェルティア嬢でいいな」 「いや。あいつはいい」 不意にレジスの雰囲気が変わった。 「そこまでいわなくても。フェルティア嬢はまれに見る魔法戦士だぞ」 「いや、ほらあいつ忙しいし。悪いじゃない」 慌てて手を振りながら、レジスは明るくいった。 「俺行くし。もっと強い戦士も紹介するからさ。な、フェルティアは止めようって」 「そんなにフェルティア嬢はいやなのか」 「そうそう。いや、あいつが嫌とかそういうんじゃなくって。忙しいだろうし」 「そうでもないと思うぞ」 アルが振り返って一台の馬車を見ている。それはレジスも気付いていたよく見かける馬車だった。 ◇ 「出してください」 御者は当主の令嬢に言われ驚いた。 数日前から令嬢はここを通りかかるたびに場所を止めさせ、外の景色を眺めていた。 「お嬢様、どうなさいました」 令嬢は馬車の窓から見えるものを拒むようにカーテンを下ろした。 「いえ、別にいきましょう」 扉がノックされた。 「出して」 「いや、それが」 この町において世俗の権力を担う自分の命令を拒むだけの権威を持つ人間は少ない。 カーテンを開けると予想通りアルの顔がある。 「さあ、出かけようフェルティア嬢。そうしないとレジス氏と二人で出かける事になるからな」 |
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