「では、さらばだ魔王。そして聖女殿」
哄笑が響いた。矢がアルに向かい狙いがつけられている。矢が一斉に放たれた。フェイトのケープが広がってアルを包んだ。
矢がフェイトの体に何本か刺さっている。フェイトは苦痛に顔を歪ませながら矢を引き抜いた。血がケープに滲む。
「渡せばどうにかしてくれるっていうわけにかいかないんでしょうね」
「敵だからな」
「敵？」
「何をしようというのか分かっている。神へ挑むものよ」
フェイトの顔に笑みが浮かび上がった。
「知っているとは思わなかった。ガドフリー、あなたは使徒か」
「まあそういったところだ」
脅威は弓を番える射手であった。怖いのは今のアルの状況だ。こんな苦しそうな彼女を見るのは初めてだ。フェイトは天蓋に光る魔法陣を解読した。
「『死の紋章』。この規模ならダルタロック神か背後にあるのは」
「君も死を通り過ぎれば分かることだ。しかし、いい尖兵になる魔王ならばな」
「なるほど。しかし、それはお断りしますよ」
「この状況を打破するには少なくとも中位以上の呪文が必要だろう。素直に死にたまえ」
フェイトは指を鳴らした。十発の光弾がフェイトの前に現れる。めくらまし、誘眠と共に、魔術師が初期に学ぶ、初歩的な呪文だ。
「魔法の矢か。そんな初歩の呪文で・・・・」
光はフェイトの周りで回転すると放たれた矢を叩き下ろした。
「下位呪文でも使い方ですよ」
「しかしそれまでです」
フェイトの背後の影が盛り上がったと思った瞬間、アサシンが背後から現れる。
ダガーの一刺しを交わしたものの、フェイトの肩から激しく血がしぶいている。
「さらば魔王に聖女。いや新しい仲間を歓迎しますよ」
天蓋が吹き飛んだ。そこに飛び浮かぶのは一体の美しいゴールドドラゴンと、祖の森であった小さなドラゴンの姿だった。
「ぐお」
アサシンの腹から小さいといっていい手が出ている。ケープの中から飛び出したアルの貫手の一撃だ。
「アル、聖女が殺人を行うとは」
アルの手は血にまみれている。清んだ碧眼には刃が宿り、敵対するものを滅ぼす意思に満ちている。
「死んでなどはいないさ。殺しはしたがね」
「えげつないまねを。一度肉体を殺して、高速で治癒しましたね」
フェイトが呟くと、アルは邪笑を浮かべた。
「いわかったか？ わしはわしの好きなようにするだけだ。魔法陣を壊してくれた礼はするがな」
「それなら彼にしてやってください」
ゴールドドラゴンは声を上げている。
「どうやって魔術師がドラゴンを。いかなる魔力を用いてしまってもドラゴンの服従は得られないだろう」
「食べ物でつりました」
あっさりとフェイトはいった。
「まさか」
「東の国の故事に倣いまして。大量の食物を。彼らは別に魔道書なんてなくても、もともとの能力で十分なんです。本もたまたまドラゴン退治にきた冒険者が持っていただけですしね。だったら、後は交渉だけでしょ。それが曲解されて『魔王』なんて呼ばれてるんだから困ったものです」
フェイトはため息をついた。
「それにあなたもドラゴンを従えているじゃないですか。お礼らしいですよ」
確かに小さなドラゴンの子の姿も見えている。
フェイトは大きく息を吐いた。
「さてお互いに全力ならものの数分ですね」
「ああ。そうだな]
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