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称号と呼ばれるものがある。 伯爵や侯爵。その生まれや身分を現すもの。 魔女やドラゴンスレイヤー。その行動がそのまま名を決めたもの。 そうしたもの中で強力な魔術師に与える称号がある。『魔王』という。だが、その名は忌み嫌われるものの一つでもある。もともとが怪しいと思われる魔術師の事。さらに魔王などという称号を与えられては当然といえた。魔王と名乗ったもののうち大半は勇者と呼ばれる存在に倒されている。理由はいろいろだが、魔王と呼ばれる段階で既に常軌を逸している場合が大いのだ。善良な魔術師なら、賢者や、大魔法使いと呼ばれる事が多い。 当代において『魔王』と呼ばれるのは一人の青年だった。彼は十二の時に、上位の魔術である空間制御を習得した。十七の時には養父の跡をつぎ、史上最年少の宮廷魔術師になっていた。その後、最強の竜の一族であるゴールドドラゴンから、長らく失われていた魔道書『佩界の書』を手に入れた。 そして城一つを丸ごと消し去った為、魔術師は魔王と呼ばれるようになった。その魔王の名をフェイト・クローナという。 その魔王は今とても困っていた。 目の前の一人の少女のためだ。 金髪碧眼。やや整いすぎたきらいがあるがきれいな顔。白い神官衣に包まれた小柄な体。そうアル・ナスラインは眠っていた。それはもうぐっすりと。 普段は大人びたというよりは、やや奇抜な論理を展開する口も、赤ん坊のように尖っており、愛らしい表情をたたえている。 交易都市フミヨでは、世界樹を持ってきたものの、会議が終わらずに、結局一室にまたされいるのだ。 ふかふかとはいえないものの、時代を経て手入れされた革張りのソファに二人座っていた。 最初はいつもの調子で喋っていたアルだったが、夜中になると、うとうとし始め、しまいには眠り込んでいた。 その頭はファイトの肩を占領しており、結局動けないわけである。 「まあ、しょうがないですね。力が無限だとしても、その放出先はあくまであなたなのだから」 フェイトはアルの寝顔を見た。アルはどんな夢を見ているのか笑っている。それはフェイトが初めてみる年相応の少女の顔だった。 「シア。そのケーキはわしのだぞ」 フェイトはたまらない気持ちになっていた。アルが失った友人の事をフェイトは知っていた。 白き翼。シアことシャイア・アルフィードは、名高い魔術師であり、ある地下迷宮でアルと共に冒険に赴いた。帰ってきたのはアルのみであった。 「幸せかもしれませんがそれは幻ですよアル・ナスライン。シャイア・アルフィードは生きてはいない。もしいるとすればそれは彼女の姿をした悪夢です」 扉が開く音がした。 「会議が終わりました。おいでください」 声だけ飛ばしてきたのはどこかに魔術師がいるのだろう。 アルは目を覚ますと眠そうに何度もこする。暫く状況が分かっていないようだった。 「会議が終わりましたよ」 唇の微動が収まったが、まだぼんやりとしているアルははっきりいって寝ぼけているようだ。 「3分ほどお待ちください。そうすればしっかりしますので」 |
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