NO4
風水夜

その1
 その2

 

z





 扉を開けると咽かえるような花の香が広がった。部屋をすすんでいけば、それは爽やかといったものではなくどこか密林の中を思わせた。花の匂いが、濃厚を通り越して苦痛になるほどものだ。
  フェイトは魔術の実験を思い出した。あの時に感じる自然ではない不自然な印象をここで同じように受けたのだ。
  中ではバネット・ガドフリーは厳粛な面持ちで立っていた。だが、その頬は何かに耐えるように時折鳴動した。
「お待たせいたしました」
  議会は静まり返っていた。
  ガラスを多用した天井からは星の光が差し込んでいる。
  黒髪に黒い瞳。そういう意味ではフェイトと似た顔だ。だが、そこで受ける印象は違った。
「決まりました」
  ガトフリーはいった。
「接岸する事に決まりました」
  フェイトはアルが奥歯は噛んでいることに気づいた。聖女の顔をしていないアルはいい意味では冷静、悪い意味ではいつでも他人事のように振舞う。だが、今見えるのははっきりとした不快だ。
「どうしました?」
  フェイトに向かっても鋭い眼差しで見てくる。それは苛立ちだった。
「こいつ、殺った。この会議場にいたものを全てな」
  フェイトはアルを守るように身構えた。ガドフリーは目を細めた。
「後始末はきっちりしたはずなのですが。いったい誰が漏らしました?」
「死者だよ。お前が殺したな」
「まあ、聖女と呼ばれるあなたならそういうこともあるかもしれませんね。正直にいいますと早く渡していただきたいのですが。こうして場を清めて待ったは私なりのあなたへの評価だと思っていただきたいですね」
  フェイトを押しのけてアルはガドフリーの前に立った。
「バネット・ガドフリー、わしはお前に敵対する」
「そう言われると思いましたよ。アル・ナスライン」
  隠れていた十数人の兵が弓を構える。
「撃て」
  フェイト、アルに向け、一斉に矢が放たれる。
「エアリアル」
  フェイトがそういうと矢が一斉に向きを変え、勢いを失う。 建物中では吹くことはない突風が矢を転がした。
  フェイトの側に半ば澄んだ翼を持った少女が姿を見せている。
「風の精霊か。この人数なら簡単だろ」
「いや、そうでもないようです」
  フェイトも最初はアルと同じ意見だった。だが、エアリアルの姿が見る間に小さくなるとその考えは消えた。それはこの建物に力が吸収されているようだ。
「戻れ」
  フェイトはエアリアルを消した。
「ここの会議場は仕掛けがありましてね。強い魔力を持つ人間、あなた方のようなものがいると裁判の意味がなくなりますから、精神に干渉するような高いレベルの魔法は効かなくなります。そうでありながらこの場で使い魔を操るとはさすが『魔王』」
「そう呼ばれてもいいことなんかないんですがね」
  アルの身体が揺らいだ。
「どうしました?」
「だいじょうぶだ」
  そうアルはいうがその顔は蒼白になり始めている。
  気づけば会議場の天蓋を通して巨大な魔法陣が空に描かれていた。
「魔王に聖女、その相手をしようというのだ。用意はしてありますよ」
 ガドフリーはアルから離れた。

もし読まれたら一押し

BACK INDEX STORY  ShuraBeatingSoul NEXT