NO3
祖の  
 森にて

その1
その2
その3

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3




 交易都市フミヨを2つに分けた理由。それは都市に伝わる伝説だった。
  もともとフミヨは星から流れ着いた一隻の小船だったという。そこに乗っていた童子と童女は人ではなく、回りの人々は上陸を許さなかった。彼らは人が知らない技を用いて小船を大きくした。小船は船になり、やがて他の追われる人々が逃げ込み、気づけば街ほどの大きさの巨大な船になっていたという。
  童子と童女はその姿のまま永いときを刻み、300年ほどが過ぎた。童女がなくなり、童子も寿命を迎えた。童子の遺言はこうであったという。
「いずれ約束の地に辿りつく。我々全てを受け入れる約束の地が」
  それから500年あまり。フミヨは既に船というだけでなく、一つの都市として十分な規模を持っていた。そして時間は回りの人々を開明させることになった。見合うだけのものがあれば、どこの国も土地を提供する事に問題はなくなった。しかしそれは新たな対立を呼んだ。
  約束の地が見つかるまで漂流を続けるという一派。早く接岸しようとする一派。その二派に別れ、人々は争いだしたのだ。
  どちらにせよ鍵となるのがその小船であった。小船は街の最下層にあるいうが、それには魔力があり街を動かす原動力となっている。 その小船の今の力では漂流を続けることも、接岸することもできない。
  星から流れ着いた。その伝説は語る。では、その星とは何かは分からない。 ただ、小船を調べた結果、その仕組みは分かった。だが、再現するには材料が足りなかった。材料は珍しい種類の木材だった。今ではただ一箇所を除いては生息しないもので、生えている場所はすぐに明らかになった。
  祖の森。そう呼ばれる森の樹であった。
  エルフの一族が住むその森の奥地は、神代から代わっていないといわれ、今では他の地域に存在していない生き物も見ることができた。小船の材料と同じ樹はそんな古代のものであった。
「問題はそれだけではかったんです。場所の障害以上に、その樹にはドラゴンが棲んでいるのですよ」
  守護者といっていいドラゴンと交渉するためにこのドラゴンの子供は必要であった。ドラゴンは個体数が少ないため、同族に対しての執着が深いのだ。たとえ違う親から生まれたとしてもそれは変わらない。
「でも、それが愚かな選択ですね」
  ドラゴンを一体殺せば人は英雄と呼ばれる。英雄と呼ばれる人間はいかほど殺戮をしてそう呼ばれるようになるのか。一人の英雄がそう呼ばれるようになるまで犠牲にするのは倒すべき敵だけではない。数多の味方もまた失われる。それだけ考えればドラゴンを倒すというのは、どれだけ愚かしい事は分かる。
「なるほどな。それがフェイト師の雇い主の考えか。たとえ、手に入れたところで、フミヨはこれからドラゴンを敵に回し続ける事になる」
「あなたにはそんなことをしなくても、自力で手に入れれるかもしれませんね。全ての神々の奇跡をレテから与えられていますからね」
「だが使えないものの方が多いぞ。例えば魔術師の信仰するディラハム神の奇跡と、法を守るクスタリオス神の奇跡は同時に使えば、恐らく体が持たない」
「魔術とは辛うじて制御できる混沌の要素を多く含みますからね。特に高等魔術になればなるほど、現実を騙さなくてはならなくなる、それはクスタリオスの禁忌に触れますからね」
「そうだ。だからわしは基本的に癒しと、言霊を利用したカース(呪詛)しか使わんよ」
「さらなる力が欲しいとは思いませんか?」
  フェイトの目に暗いものがともった。
「言ったらしっかり包装してリボンかけてくれるなら別だが、そうではないのだろう。今回、フミヨが更なる力を求めるのにも代償が必要だった。今回の内紛や、ドラゴンを敵に回すような事をな。不和を得てまで力を求めようとは思わない」
「そのために今の立場を守られるのですね」
「完全な中立であるのは無理だがそう心がけるのはできる。もっともわしは自分のしたいことを曲げてまでとは思ってないがな。結局、絶対的な中立は存在しない」
「それは分かります。だから望んでいないのにつれてこられた存在に、肩入れるする」
「その通りだ」
  アルはそういうとドラゴンの子は声を上げた。


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