NO1
砂の城
その1
その2
その3

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3
 その部屋はすり鉢を思わせる形をしていた。部屋の中央に向かい砂が、じりじり滑っていくそこは巨大な蟻地獄であった。
  中央には一人の美しい娘が立っていた。両手両足を縄のようなもので縛られ、体の半ばは砂に沈んでいる。その回りには黄金や、これまで彼女を救おうとしたものの剣や鎧といったものが見える。
「助けてください」
  娘の言葉にアルは小さく笑った。
「なあ、芝居は止めるのだな」
  娘は悲しそうな顔をするが目には感情は見えない。
「砂漠に城に、宝物、囚われの娘。噂をまいて人を集めるとは、ちょうちんあんこうの類も実に進化したものだな。いったいどこのたちの悪い魔術師に作られた」
「小さいのによく知っているのね」
「知っているというか分かっているというか。今の振る舞いを止めるのなら見逃そう」
「あなた勘違いしてるわね。私はこの世の法に従ってしているだけよ」
「だますものとだまされるもの。弱肉強食。さまざまな法があるがお前はどれにしたがっている?」
「『己のほしいままに振舞え』」
  娘の体が飛び出した。その足は少しづつ人間の肉体を失い砂と一体となっている。
  砂が震え、アルの身体を中央に引きずりこむ。もうアルの身体は少女の前だった。
「カオティックの教義だな。だが、その言葉はわしの信条でもある。では、いかせてもらうとしよう」
  娘の体が四つにさけ巨大な顎と化す。アルは転がりながら軽やかに攻めをかわした。砂煙が上がり、地面に人間大の穴が開く。
「随分と見苦しくなったな」
「逃ゲラレルト思ウナ。コノ砂ハ全テ身体ダ」
「なるほどな。この砂を養うのにいったどれだけのものを処理してきたことか」
  アルの手が白銀の光に包まれる。脈動する光は胸の鼓動のように明滅し、生命そのもののように眩く美しい。
「癒しの泉は涸れ果て 万物の成生を潰える」
  怪物の体から光る何かが取り出された。一瞬の悲鳴の後、怪物の姿は消え去り、元の少女の姿となっている。少女は自分の手を見た。その手は老婆のようにしわにまみれている。
「どうしてこんな」
「生きるというのは常に癒し続けることなのだ。それを停止させた。緩慢な死を味わえ」
「そんなばかな事」
「この砂はお前が犠牲にしたものたちの代わった姿なのだろう。なら、この砂の重みを自分の生命の重さだと思うのだな」
  城の、洞窟の崩壊が始まった。
「一緒に滅べ」
  少女の顔は見る間に乾き、骨と化し、ついには消え去った。
  アルは逃げようとした。
  その身体が異様に重い事に気付く。気付けば砂の欠片が、あの少女の怨霊のようにまとわりついてくる。
「これもまたいいか」
  少なくとも自分ができなかった事を悔み続けるよりは何倍も。
「お待たせ」
  アルの耳に聞こえてきた声がレジスのものだった。
  滑らかに宙を飛んでくるそれは魔法の絨毯であった。
「どうしてきた?」
「一応金分は働かないとね」
  そういうレジスの顔色が悪いのは日焼けしていている肌色の上からも分かる。
  レジスも砂に触れ、体力を奪われているのだ。
「このバカが」
  アルは怒鳴りつけた。
「うわ、助けにきたのにひでえ」
「これぐらい自力でどうにかなるのだ」
「はい、いくよ」
  レジスはアルの手を引っ張ると絨毯に乗り、一気に宙空を滑り出した。

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