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z N O 1 砂 の 城 そ の 1 |
その城がいつできるのか誰も知るものはない。 ある日の事、忽然と白く照り返す砂の海の中に、巨大な巻貝を思わすその姿が、長い影を残すのを見るだけだ。 神秘の塔。噂は噂を呼んだ。その中には神に愛された少女が捕らえられているともいうし、異界へと通じる通路があるともいう。 ただの噂と笑い飛ばすものもいた。だが、そこで手に入れた黄金が市場を賑わすことがあった。黄金を運び込んだ人間はいう。 『美しいお姫様がいるんだ。彼女は俺に会うとこういったんだ。私を助けてくれるような強い人間を呼んでくれってな。だから、この宝物は安くてもいんだ。かわりに広めてくれこの話を』 「あれが砂の城のよくできるっていう谷だよ」 レジス・シャールはいった。 砂漠のガイドは辛いが今回はそれほどではなかった。それはここまで来た相手がよかったこともあった。何分、金を出し惜しむ冒険者が多い中、その少年は即金で提示した金額を支払った。加えて、自分の面倒は自分で見る。 少年は頷くと黙々と歩いていく。妙な白衣に包まれた小柄な、というかまだ成長の途中にある身体は細く、その体のどこに砂漠を横断してきた体力があるのかレジスには不思議に思える。 谷についた時、目に入ってきたのは巨大な砂の城だった。そう思えたが、砂であの巨大な城を作ることはできない。恐らくは何らかの魔術が使われているのだろう。 「すまなかった。ここまででいいぞ」 ぶっきらぼうな口調だが、それを放つ顔は整っていて美しいとさえいえた。 「本当に行くの? 酔狂だよ」 「わしもそう思う。でも、決めてしまったことだからしょうがない」 恐らく自分はこの少年が気に入っているのだろう。 どこか強気なところは、レジスの知人の少女を思い出させた。 フェルティア・アルフィスタ・ラディルというその少女とは喧嘩別れしたところだった。大した理由でははないのにも関わらずこうこじれているのは、二人とも意地っ張りだからだろう。その理由というのはフェルティアがある貴賓の護衛を仰せつかって、約束を破った事にある。 「もしよかったらこの先も行くよ。もともと冒険者だからね手助けくらいはできる」 素っ気無く少年はいうと、小さく笑い数枚の金貨をレジスに手渡した。 「どうもありがとう。レテの祝福があなたと共にあることを」 少年はいうと歩き出した。 「いや、本当に気をつけて」 それがレジスの本心だった。 レジスの青い瞳は少年の姿が城に消えるまで動くことはなかった。 BACK INDEX STORY ShuraBeatingSoul NEXT |
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