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Babel

事件
the case


12月24日

 

 

 


 12月24日 桜市
 あたしは大学生をしている傍ら、ライターを目指している。高校生の時から出版社にも出入りしているというと目的意識があるように聞こえるかもしれない。ただし、最初は週刊誌のミスコンのタヒチにいけるという副賞目当て応募しただけで、セーラー服姿で、社会人の人に一時の癒しを提供しただけだけど。
  そんななんで、実際は始めて一年くらい。記事にならないのはしょっちゅうなんだけど、今回はかけた手間隙が違うのだ。まあ、原稿はぽしゃったけどこうして別のチャンスにめぐり合えたから今日はよしとしておこう。
  飛び出したあたしは会社前に乗り付けてある愛車の黄色いパジョロミニ『ダックスちゃん』に飛び乗った。
  ヒーターをかけながら資料に目を通す。
  資料に載せられている身元の分かっている被害者は2名だった。大学教授、議員だ。議員の方は幕張で燃やされていた死体だ。でも、それ以上に何名もの死体が見つかっているのが記されていた。
「まあ、こっちの方が無難よね」
  資料の一つに目をやる。

 寺原寅彦 剣柄大学考古学部中国文明研究室所属。年齢は1953年12月7日生まれ、没年47歳。中国沿海州の前方後円墳、四角錐型建造物(ピラミッド)研究の第一人者。最近の著作は一般向けでは『太古の眠る地』(新書版1998年東洋書籍3600円)、論文としては『魚人に見る珠伝説の考察』、『魃』がある。
  死亡状況は剣柄大学の第八会議室で高熱に曝されて死亡していた。なお、頭部の破損は特に激しく原型を留めていなかった。死体のみが激しく燃焼していた事から、違う場所で殺害され運ばれた模様。

「とりあえず現場百回ね」
  剣柄大学は桜市にあるから車を飛ばせば30分くらいだ。
  あたしはダックスちゃんを発車させた。
  桜市は私立大学を中心にいくつかの私立大学と企業の研究所がある学園都市だ。つくばに比べて新東京国際空港が近く、幕張メッセも一時間あまりでつく、千葉のフロンティアと言える。
  千葉県内では珍しい広い道路を爽快に走り抜け、剣柄大学の構内に入った。
  もともと学校を中心に市が設定されているので校内もかなり広い。
  ケンブリッジやオックスフォードみたいに県外からの学生や教職員もほぼ全て構内に住んでいるっていう話をあたしは思い出した。
  ダックスちゃんを学生用の駐車場に止め、歩き始めた。
  クリスマスということもあって学生の姿は多い。まあ、あたしも大学生だからそんなに目立たないけど。
  標識に従ってあたしは歩き始めた。よく自転車とかキックボードで移動している学生見るけどこれなら当然かも。かなり広い。
  考古学棟は学校の外れにあった。周りは結構樹木が多く、新しい学校とは思えないくらい古びた雰囲気だった。
  あたしは大きく息を吐くと玄関から上がった。
「ごめんください」
  中に入ると埃臭い空気が流れてくる。
  廊下には収まり切らないのか、分類中なのか、さまざまなものがダンボールに詰められ置いてある。
  あたしは中国文明研究室に向かって歩き始めた。
  もし人目が無かったら証拠探しに研究室の中を漁ってもいいと思っていた。
  幸い長い廊下には誰の姿が無く、研究室の扉には鍵らしいものは見当たらない。
  研究室のドアノブに手を触れてそっと開けようとすると後ろから足音が聞こえてきた。
「すいません、寺原先生いらっしゃいますか?」
  わざとらしいくらい大声で中に向かい声をかける。
「先生は亡くなられましたよ」
  予想通りというか後ろから来た足音の主は言った。
  あたしは今気付いたような顔で振り返った。
  そこに立つのは細い身体であるが、長身の男子だった。怪我でもしているのか頭に包帯を巻いている。胸のIDカードには『助手 小谷弘之』と書かれている。
「本当ですか。先生にお会いできるのを楽しみにしてたのに」
  あたそは手を口に当てた。
[完璧な演技]
「先生の書かれた『魚人に見る珠伝説の考察』を読んで是非お会いしたいと思っていたんです。それで近所まで来る用事があったものですからお話をお聞きできないかと思いまして」
  小谷助手は哀しげな顔で頷いた。
「立ち話もなんですからよかったら」
  小谷助手はIDカードを扉にあてるとロックが解除された。
  整理整頓された研究室は故寺原教授の性格を示しているようだ。情報整理などに使われたらしいパソコンが数台と、壁にある棚に多くある資料。その中で発掘中に写したらしい団体の写真がある。その中央では故寺原教授が笑顔を浮かべていた。
  ところが机の上はカオスである。様々なものが置かれていた。青銅器や、土器、石器様々なものが、無造作に置かれている。
「随分と散らかってますね」
「明日になれば全て引き取られてしまうんです。先生が発掘のスポンサーだった企業とそういう契約をかわしていたそうで。そのために大学以外のものはみんな出したんですよ」
「そうなんですか。じゃあこれ以上にたくさんあるんですね」
「ええ。あちらに」
  小谷助手が目で、部屋を示した。携帯が音を立てた。
「失礼」
  小谷助手は研究室から出て廊下に出た。
  あたしはこっそりドアへと近づいた。そこも先ほどのようなカード管理するタイプらしく鍵は見当たらない。
  研究室を見まわした。とりあえずペン形のデジカメをとるとドアを含めて、置いてある品物やら、ラベルやらとにかく使えそうなものを写真にとった。
「お待たせしました」
  小谷は戻ってきた。
「どうもありがとうございました」
  うやうやしく頭を下げた。
「少しでも先生の研究に触れられたようで嬉しかったです」
と目に手をやる。


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