それいけ
ノノ先生

3.教え子たち

 

  世の中には一目ぼれという言葉がある。
  そんなことは人間の話だと思っていた。
  でも、そんなことはないっていうのが今日初めて分かった。
  きれいな、それでいてワイルドさを感じさせる金色の髪。形のいい頤。きれいな瞳。持ち運びに困らなそうなサイズ。

「サラ、サラ・ノーマン。魔術は天使向きじゃないのは分かるけどしっかり聞いて」
「はい、分かったよ」
  ノノは大きく息を吐いた。
  そろそろ半月あまり。だいたい教え子たちの事は分かってきていた。
 比較的みんなまじめに授業を聞くのが以外だったが、考えて見ればみんな必死なのだ。
  結局ここを卒業すればそれなりの場所を得ることになる。この世界で生きていくのなら学歴は必要なのだ。たとえ異能を持つとしても。いいや、異能を持つが故にだ。管理されていないそうした力は恐怖を与える。だが、それがコントロールされていると証明されれば違う次元のものとなる。
  特にサラはそれが必要なタイプだろう。サラは天使だ。
  サラは褐色の肌に首筋にかかる程度の癖のある金髪で、長身でスタイルのいいせいか超然としたというか、天使らしい畏怖すべき神秘といった雰囲気をもっている。物静かないい子なのは分かっていた。それでも普通に受け答えはする。この学校に来るような天使は温厚な性格のものが多い。

「どうしてそうルーテは遅いんだよ」
  サラはルーテにいった。
  同じ天使系統であるはずなのに自分に比べてルーテは遅く感じられる。
  この学校に近い船溜まりにくるのにも、ルーテを待って十分は過ぎている。本来、天使なら一瞬でこれる距離のはずなのだが。
「サラさんが早いですよ。それにどうしてそんなに魔術のとりしまりなんかするですか。サラさんも御仕事ないから学校にきているですよね?」
「そんな事を聞かれたら消されてしまうよ」
  サラは小さな声でいった。
「はあ、いちじく扱いはされないと思うですけど」
「『今から後いつまでも、お前から実を食べる者がないように』ね。
いつ招命されても困らないように鍛えておかないとだめだよ」
「天の国への門は狭いですからね」
「そうと分かったらさっさとあのレギオンを掃除するよ」
  レギオン。船溜まりといわれるそこに溜まっているのは半ば実体を持った気の塊だ。その中にこもっているのはうらみつらみといった負の感情だ。まだ、それは何も起こしてはいない。だが、これをこれらレギオンは魔術の触媒になるのだ。
「寧が中途半端に砲撃なんかするから後始末が大変になるんだよ。サラは破壊、ルーテは浄化だよ」
「了解したです」
  サラの手には制服姿には不釣り合いな光の斧が現れる。
「さっさといくよ」
  サラは斧を叩き落とした。
「滑ったよ」
  滑りながらもレギオンは一瞬で砕け散る。だが、それは一部に過ぎない。二度、三度とするうちにレギオンの多くが砕かれる。実体を失い浮かび上がった思念をルーテが奈落に誘導していく。
「てめえら人がせっかくためておいたのに何しやがる」
  叫んでいるのは現れた小鬼だった。のっぺりとした顔と糸のように細い目。ずんぐりした身体は黒い衣に覆われ足は赤い。
  サラは息を吐いた。
「魔術師は地獄行きだよ」
  サラはごく自然に小鬼に斧を向けた。
「お前ら天使だろ。博愛とかないのか」
  無言のままサラは斧を叩き落とした。小鬼の股の間に斧がめり込んでいる。
「サラさん、そんなにしなくても」
  サラは斧を消した。
「あんたたち止まりなさい」
  その声は矢のように突き刺さった。
「喧嘩しちゃダメでしょ」
「どうしたですサラさん」
「帰ろう」
「どうしたですか?」
「来るの」
  ルーテは近づいて来る一団の中にノノの姿を見つけ大きく手を振った。
「ノノさん」
  ノノが急いで近づいてきているのが見える。中で飛翔できるのはノノだけらしく誰もついてこない。
「ノノさん、どうしたですか?」
「どうしたって、辺り一帯破壊している生徒がいるからって。まさか二人が」
「ああ、それは・・・・よくわからないです」
  いいかかったルーテの翼はサラの手につねられている。
「ああ、聞いてくれよ」
  小鬼はノノに向かい声をかける。
「ひでえんだよ、こいつら」
  言い掛かって小鬼は絶句した。ノノの背後で、サラは小鬼など一撃で叩き潰す大きさの斧を構えている。
「がこなかったら危うく殺されるところで。なんかチェーンソを持って変な仮面つけた大男でした」
「助けてあげたんだ。まあ、サラさん天使だしね」
  ノノがサラに目を向けた時には既に斧は消えている。
「私も天使ですノノさん」
「ぼけなくていいよルーテ。ルーテが、羽根人間なのは分かっている。最近、輪もつけてないし」
「ひどいですよ。わたしは本物の天使です」
  ルーテは懐から輪を捜し出すと頭につけた。
「分かった分かった。じゃあ、この辺りは危ないから早く帰るのよ」
  ノノはそういうと去っていった。
「見逃してあげるよ」
  サラは言うと飛び上がった。ルーテはあわてて後を追った。
「どうしたですか」
「だって乱暴な子って思われたくないよ」
  サラは小声で言った。
「サラさんたらもう」

サラ・ノーマン
毎日のように、化け物に喧嘩を吹っかけるバーサーカー。
戦闘力の高い戦天使。現在これといった役目がないので、学校に通っている。


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