今回はたいちさんのツアーに参加させていただきました記念でちょっと千葉の地を離れ番外です。さらに白澤図風
SS 穢れき姫神
こうした衣装に身を固めるのは初めての事だった。
神杉姫は自分の身体を包む、絹の 服 を見た。しっかりと織られ、美しく着飾られたその服は、人のためのものだろう。
これが私。
いつもならば身を包むのは純白。それをなくし、こうした艶やかなものをまとう。それもよごれのように思えたが、それ以上のものが確かにある。
神であるその身でこうした事を考えた事はなかった。
神杉姫が今まで願ったのはこの自分を祭ってくれるちいさな村が幸せである事だったのだから。だから、自分が華やかになることなど考えた事もなかった。
猿鬼に傷を負わせながら逃げられた。数多の毒を集めて作り出した毒。千毒を用意したにも関わらずにだ。
神杉姫は刀を隠し持った。 三条 宗近の名刀鬼切丸。これで次は必ず止めなくてはならない。もし、ここで傷が癒えて、逃げ出されれば同じ事が、ここで、また他の場所で起きる事になる。
その袂の毒、血の穢れを、人がなしたこれが防いでくれる事を信じて。
猿鬼の伝承〜由来〜
猿鬼はもともと大西山の釜ヶ谷といところに棲んでいたといいます。その地の鬼の頭である善重郎と共に過ごしていましたが、いうことを聞かなくなり、撃ち殺すと脅され逃げてきたといいます。逃げた猿鬼は柳田の村にある、岩井戸と呼ばれる洞窟に住み着き、仲間と共に暮らすようになりました。そこでの猿鬼の様子は、作物を荒らし、乱暴を働き、時には 子供 をさらって食ったといいます。その噂がとある年の神無月で行われる 出雲 での話題となりました。 能登 の事は能登の神に定めさせるのがいい。そういうことになり、能登一の神である気多大明神を大将に、 三井 の大幡神杉姫を副将に、猿鬼退治となりました。
神々は岩井戸から出てきた猿鬼を狙って一斉に矢を放ちました。しかし、猿鬼の動きは速くあたらない上に、あたっても全身に漆を塗ったせいで滑りままなりません。そのうち猿鬼たちは矢を握って投げ返してくる始末です。神々は一度撤退します。
神杉姫は、悩みながら、海岸を歩いています。そうすると波の音に言葉となって聞こえてきます。『白布干反に御身を隠して筒の矢に射させ給えよ神杉の姫』。それに神杉姫は従い、筒矢を作り、やじりには千毒と呼ばれる毒を塗ります。
猿鬼たちは再び攻めてきた神々の矢を物ともしないでいましたが、そのうちに面倒くさくなったのか矢を握ります。そう筒矢は持ったとして中の矢そのものは速さを失わないのです。猿鬼の目はつぶれます。しめたと思ったのもつかの間、猿鬼は他の鬼たちに助けられ、岩井戸に逃げ込みます。
そこで神々は一計を案じます。閉じた岩戸を開くには神代の頃から決まっている事があります。そう騒いで招きよせるのです。
神杉姫は美女に姿を変え、他の神々も歌舞音曲で騒ぎ立てます。猿鬼はおびき出されて出てきます。姫は近づいてきた猿鬼を刀できりつけます。首を切られた猿鬼は川を黒く濁すほどの血を流しながら逃げていきますが、やがて息絶えました。
その後は今でも残っており、名刀が猿鬼の首を討ち取ったあとには、真っ黒な血がずーっと川となって流れだしましたので「黒川」、矢が当たったところが「当目」。村人が猿鬼の霊をなぐさめるために建てた祠が、岩井戸神社となっております。
二人の神〜余談〜
猿鬼退治に関して活躍する神の中で語られる二柱の神。神杉姫と気多大明神の正体はなんなのでしょうか。
気多大明神は能登一の宮と呼ばれる由緒ある神社であり主に祭られている神はオオナムチ(大名持)です。この神は皆さんもご存知と思います因幡の白兎の主役となるいい神様です。出雲で生まれた彼はその後、黄泉の国に行きスサノオ(素戔嗚)の娘、スセリ(須勢理姫)を娶ります。そしてオオクニヌシ(大国主)となり葦原中国を支配するようになるのです。
神杉姫は名で呼ばれる事が多いですが、女神もまた宮に祭られています。その宮は輪島市の三井大幡神杉伊豆牟姫神社(ひめ部分は当用漢字ではないので違う字です)です。祭神は足摩乳命、奇稲田姫となっています。このニ柱の女神はヤマタノオロチ退治の際にヒロインとなる女神とその母となります。神杉伊豆牟というのは、神杉を祭るという意味だそうなので、実在に神社にいた巫女が、伝説となり、神杉姫を形成したのかもしれません。猿鬼の一件があり、神杉姫は気多大明神の妻神ということになっております。
また、能登一の宮は気多大明神ではなく、羽咋神社ともいわれています。祭られているのは仁天皇の第13皇子石衝別命です。彼は、ヤマトタケルに収斂していくであろう系譜、戦う皇子です。能登を平定し、悪毒鳥というものを退治したり、また犬をよく用いました。その流れで猿鬼を退治したという説もあります。そう考えると、皇子と巫女が協力して猿鬼を退治するという、どこかヒロイックな話になりますよね。
〜所感〜
実は自分が回ってみて一番思い出したのは西遊記です。孫悟空は花果山水簾洞といわれる洞窟に篭り、仲間のサルを従え大暴れしました。水簾洞はその下は竜宮、すなわち海にまでつながっています。退治しに来るのは二郎真君。天帝の一族で、また犬を武器とします。そして多くの神兵を物ともしませんでした。加えて孫悟空の顔はこう表現されています雷公のような。雷様のことを思い出せば鬼を連想するのは難しくないと思います。加えて孫悟空もまた虎の皮を身につけています。それはどこか鬼を思い出させないでしょうか。
最後にたいちさん、一緒にいったみなさんどうもありがとうございました。
同行した皆さんのサイト
たいちさん
山口敏太郎さん 逸匠冥帝さん 佐野とよふささん 河本けふへゐさん 太郎坊さん みなこさん 刃さま