葵の影に妖あり

東葛2

    ある夜の事、男が根木内の池にきた。池は七頭の大蛇が出て、将軍家所縁の者に退治されたという。そんな池なので釣りをするものもなく、池には魚が多かった。釣り始めれば魚は簡単にとれ、怯えも欲に負けていった。気付けば魚篭は満杯になっている。戻ろう。そう思った時、池の方で何かが動いたように思えた。池の中、お堂が見えた。そこは蛇を祭っているという。聞こえてきた。ありえない声が。男は叫びを上げ、逃げ出していた。気付けば魚篭の中に魚は一匹もいない。「黄門め、余計なものを作りやがって」と男は苦々しげに呟いた。
  黄門は光圀に、太閤は秀吉にといわれるように、黄門とは水戸光圀の事です。現在、根木内の七面神社の辺りには池がありました。釣り好きな黄門様が池で釣りをしていると、蛇が出てきて足をなめました。仕えていた武士は蛇を無礼討ちしてしまいます。その夜の事です。池から水柱があがったと思うと大蛇が現れ、黄門さまに襲い掛かります。「よくもわが子を」という声を聞きながら黄門さまは冷静に火攻めを指示します。油をまかれ、火矢を射掛けられ、蛇は焼き殺されてしまいました。殺したものの黄門さまは哀れに思われて、親子の蛇を一つの壷にいれてお堂を建てて祭ったのです。池はその後、おいてけ堀となったようで、魚をとると、堂が異音を発したといいます。
  黄門さまは諸国を漫遊した印象がありますが、お話の事で、ほとんど自分の領内と江戸近辺を行き来していただけといいます。ところが松戸には水戸街道がありますから、本当に立ち寄られたのです。その為、黄門さまはいくつか伝説を残しているのですが、それは何れまた。