妖怪古今録 はじめに

 このコーナーで扱っている妖怪とはなんなのでしょうか?

 自分は生まれて初めて接した『妖怪』は、囲炉裏で祖母から語られる昔話などではなく、早朝再放送していた白黒の『ゲゲ

ゲの鬼太郎』でした。

自分と同じく、妖怪は、水木しげるさんの影響が大きいと思います。

 水木さんの描かれる妖怪には、

@ 江戸時代の絵師が描いた化けもの 『泥田坊』 『輪入道』 『飛縁魔』

A 伝説や伝承 『魍魎』 『一反木綿』 『水虎』 

B 創作 『鬼太郎』 『ねこ娘』 『ねずみ男』

など多様な存在があります。

しかし、鬼太郎ワールドという世界観の中では、で妖怪の多くは人格をもっており、独立したキャラクターとして描かれてい

ます。このようにキャラクターとして成立したものが、今の一般的な妖怪像だと思うのですがどうでしょう。

  ちなみにこうした時代に合わせて、古いものをいろいろな見方で描きなおすのは、水木さんだけではなく、古今東西行われ

ていた事です。

  例えば、江戸時代の絵師鳥山石燕が中国のものを描きました。また、『道成寺』など様々な伝説が歌舞伎など表現の様式に

合わせて新たに解釈され人気を博しました。シェークスピアは神話や伝承から取り出した妖精で『真夏の夜の夢』という世界

を描きました。現在では、多くのゲームに登場する様々な怪物が、世界各地、あるいは様々な創作の中から取り込まれていま

す。

 キャラクターである妖怪は、非常に分かりやすく、親しみが持てるものです。では辞書にはどうあるでしょうか。大辞林に

よりますと、

『日常の経験や理解を超えた不思議な存在や現象。山姥・天狗・一つ目小僧・海坊主・河童・雪女など。ばけもの。』

  となっています。

  ということで、もともと妖怪とは、怪奇現象のようなものから、ちょっと変わった話も含んでいるのです。

 
  そのような妖怪はどう誕生するのでしょうか。

 『桜村の狐は人を化かす』という話があります。

  桜村は狐が多く、お山にあるお寺を御参りした帰り狐に騙されて御土産をとられてしまった。夜道でいい匂いがしてお店に

入っていい気分で過ごしていて、朝になれば肥溜めの中の朝を迎えた。

  これは不思議な話ですし、狐も登場しますから妖怪の話として伝わります。

『桜村の狐は人を化かす』と聞いた子供は、そのことを昔話として語ります。桜村は桜町になり桜市になり狐も、お姉さん方

もいなくなりました。でも狐の話は残り続けるのです。

  ちなみに桜村周辺は所謂歓楽街で、お姉さんが袖を引くような場所でした。それを見越してお山への祈願には男だけで行く

のが慣わしになっている程でした。

  こんな事が背景にあると考えると、最初に感じたような妖怪話と思えますか?

  実はお姉さん方に騙されたお父さん連中が、狐に騙されたといいわけしていたなんて考えてしまいませんか。

  でも桜村の狐の話がどれもいいわけだったのか、本当に狐に化かされたのか誰にも分からないのです。

 実はこの本当か分からないところこそは妖怪、正体の分からないものなのではないでしょうか。