ロキ
積木さんイラストありがとうございます |
SS バルキリーの憂鬱 そこは戦場だった。 いや、戦場の終わりだ。全ての戦士たちは勇猛に戦い、鋼をぶつかり合わせ、血を流した。 それは流血の舞台である、戦士にとって最高の誉れとなるものだった。 栄光ある戦士は戦いの果てに倒れ、ヴァルハラはオーディンのそばに行き、酒を楽しみ、 永遠に戦い続けることを望む。 それを選ぶのは何者か? 一羽の白鳥が戦場の上を回っている。純白のその翼は暗いここには不釣合いで、むしろ 凍てついた水辺がふさわしい。だがこの白鳥にとりここがあるべき場所であった。 白鳥がくだる。地面に降り立った時、白鳥の姿はなく、そこにいるのは純白の鎧に身を包み、 手にもった槍には光輝をともす、バルキリーの姿だった。 バルキリーこそ、戦士を選び、勝敗を操る、戦場の存在であった。 「遅れたせいか」 その彼女が遅れたのはほんの小さな事であった。この白鳥の姿をとるための白鳥の衣が隠されていたのだ。 バルキリーは呟いた。 自分が眼をつけていた戦士たちの姿はどこにもない。あるのはノルンたちに運命を選ばれたような戦士の 魂を持たぬものばかりだ。 再び白鳥の姿に転じ、戦士がいるであろう砦に向かい飛翔する。 バルキリーは絶句した。 砦は歓楽の街と化していた。 美しい女性達はどこからきたのか。戦士たちは戦いを忘れたように騒ぎ酒を飲み、女をざわめき笑い声をあげている。 それはバルキリーの眼にした戦士の姿ではない。堕落した姿に声をあげる。 男達を堕落させたものはだれか? 白鳥の姿を止め、少女の姿になるとそのまま砦の中を歩く。見られていた。戦場で崇高なものを 見る眼差しではなく、下卑た視線だった。 そこまで堕落させたものが忌々しい。 饗宴の中心。 王は王座にいた。だが、王座に腰掛けるのは一人の女。その膝で屈しているものこそ王であった。 「何をしている」 声があがると王はにごった目でバルキリーを見つめた。そして興味を失ったように女の膝に擦り寄った。 それは異様。 「貴様は何者だ」 バルキリーの槍が輝く。 「何者か? その問いはおろかしいなバルキリーよ」 もれる声は男のものだった。 「さすがに分かったみたいだね」 かわかう口ぶりだった。 「どうしてこんなまねを?」 「いや、ちょっとしたお遊びだよ。オーディーンが戦士を招く場所に張り合えるものを作れるかと思ってね」 「そのために戦士を堕落させたのか?」 「違うよバルキリー」 ロキの声は悲しそうだった。 「この魂こそが人の本質なのだよ。そして魂はどこからきたのか」 「それ以上いうな邪神」 バルキリーは突きかかった。 |
森の子〜由来〜 ロキは『炎(ロギ)』を語源とする言葉だといわれています。『叩いて火を生じさせるもの(ファルバウティ)』と、『森林の多い島(ラウファイ)』の子とされています。恐らくは木木から生じる炎が元なのでしょう。その正体は山火事のもたらす災厄なのではないかといわれています。スカンジナビアでは、今でも火に関する事象の中でロキを扱った言い回しを見る事ができます。炉で火が踊った時は、ロキが自分の子供を叩いているといいます。 さて、そのような精霊めいていたロキですが、いつの頃からかその性質は変化していきました。 ロキは神の王であるオーディンと親交を結んだのです。 さて、そのような精霊めいていたロキですが、いつの頃からかその性質は変化していきました。キリスト教の導入によって悪魔めいた存在の外形が揃ってきたせいか、ロキはイタズラ好きというにはひどいことをするようになってきました。そうルシファーとの同一化がはじまったのです。 さて、ロキは神の王であるオーディンと友情を結びます。それは後に不吉をもたらします。 もともと北欧神話は、神々の永続性や、世界が恒久的に続くのを、否定している物語です。そう考えるとロキは必要不可欠な滅びの因子であり、また世界を新しく産むために必要な存在だったのです。 |
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冒険と策謀〜余談〜 ラグナロクの始まりは小さな事でした。神々の住む住居の屋根の修理をロキは巨人に頼みました。巨人たちは優秀で屋根を美しく直します。ただ、その報酬が問題だったのです。それは太陽と月、そしてフレイアだったのです。フレイアは前述のように誇り高い美の女神ですから無理ですが、さらに太陽と月を渡すことはできません。神々達はロキの詭計を暴き、巨人に謝罪します。その場では何も起きませんでした。しかし、この瞬間にラグナロクははじまったのです。そう、この世界を支配する存在の約束がまがい物であるのが明らかになったのです。世界には悪意が満ちました。 |