ドゥサ

SS ある街の滅び

  あの人と会った後はどうしてこんなに寂しくなるんだろう。しかし女王と呼ばれ、ペラスゴイの民から女王として崇拝を集める私は耐えなくてはいけなかった。
  大地の女神ガイアの孫であるわたしは、砂浜の砂が海にひかれるように、海の神であるあの人の中に吸い込まれてしまっている気がする。
「気が済みましたかメデューサ」
  その声に振り返ると立つのはアテナだった。わたしはゆっくりと一礼した。
「ここは私の神殿。ここで叔父上と結ばれるとはいかなる罰を受けるかお分かりですね?」
「結ばれる。いいえ、ただ私はポセイドンさまとお話していただけで。それにここはまだ誰の神殿でもないと」
「いいえ。勝負に勝ちこの街はアテネイと呼ばれるようになったの。この神殿はわたしのものよ」
  アテナは怒っているようだった。
「神罰を受けなさい」
  稲光のようなものが走ったと思うとわたしはそのまま意識を失っていた。
  目を覚ますとアテナの姿はない。わたしはアテネイと呼ばれるようになった街に背を向け、自分を崇めるベラスゴイの街に戻った。
  それがわたしの愛するべラスゴイの終わりになるとは知らずに。
姦淫の罰〜由来〜
 もともとメデューサは大地母神であるガイアの孫にあたる美しい少女神です。その彼女がどうしてこのような事になったかと言うとポセイドンと恋に落ち、それにより神々に反感を持たれました。さらにアテナ神殿で交わるという行為をしたためアテナに呪いをかけられ、蛇の髪に、青銅の手、石化能力を持つ目を持つ事になったのです。
  その後、アテナの手引きにより現れたペルセウスにより殺されてしまい、その首はアテナの胸当てにされてしまったといいます。
  メデューサもまた零落した神と言えます。メデューサの語源は女王であるといいます。これは彼女がギリシア以前に地中海を支配したペラスゴイ人の神であった事に由来するものです。彼女はポセイドンの妻神として信仰されていました。ポセイドンがギリシア神話に導入された時、妻神としての地位は剥奪され、怪物となってしまったのです。
同一の側面〜余談〜
 メドゥーサはアテナの元にあります。アテナの元にいった理由はペルセウスの話に関連しています。ペルセウスが、メドゥーサを退治する時に、鏡の盾をくれたからです。その後、彼がアンドロメダを救うための話が伝えられています。しかし、これには隠された一面があります。
  実はアテナはもともとシリアの女神であったといわれます。世の多くの女神たちと同じように彼女もまた三柱で信仰されていました。その破壊であり、恐怖の側面を示した女神の名がメドゥーサだったのです。だからアテナにメドゥーサが捧げられたのではなく、意匠としての蛇を見たものが説明としてこの神話を作り出したのかもしれません。
  蛇としてのアテナにはもう一つ話が伝わっております。アテネイはアテナに捧げられた町として有名です。そのアテネイの王ケクロプスに、アテナは一つの箱に入れた神の子を預けます。中を見ることなく養育するように言われました。しかし好奇心にかられた娘が見てしまい気が狂ってしまいました。その子はアテナがヘパイストスとの交情をいとった時に、落ちた精液から生まれた神の子だったのです。その姿は蛇であったといいます。 アテナの蛇としての一面を語る挿話ではないでしょうか。